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カルアはすたすたとゴールポスト前へと走っていった。久しぶりのグラウンド。しかも、全体の見渡せる場所。
中学生の時は、本当にどこでも守った。チームは常に部員不足で、助っ人に頼んで試合に出ている状況だった。大きな助っ人が頼めたときは後ろ、小さな助っ人しか頼めなかったときは前。とにかく穴が空いたところに彼は入った。
それに比べて、今日の光景は壮観だった。2人足りないとはいえ、紅白戦ができる人数がいる。しかもレギュラーメンバーのフォワードは見るからに大きく、「ちゃんとしたチームだ」とカルアは思った。
高校では、ラグビー部に入るつもりはなかった。こういう「ちゃんとしたところ」が怖かったのだ。結局、中学の時は一勝もできなかった。ちゃんとしたコーチに習ったこともない。そんな自分は、求められた人間ではない、と思ったのだ。
県外から来た彼のことは、誰も知らないと思っていた。しかし、先週突然、廊下で声をかけられたのだ。
「犬伏!?」
相手は目を丸くしていたが、カルアも驚いていた。相手の顔に見覚えがなかったのである。
「えーと……」
「成山中の西木! 覚えてない?」
「あー……」
「俺は覚えてんのになあ。ラグビー部なんで入ってないの?」
「いやあ。だって、対戦したなら知ってるでしょ。むちゃ弱かったよ、うち」
「何言ってんだよ! お前はすごかったじゃん。一緒にやろうぜ」
「えー」
カルアは乗り気ではなかったが、西木は毎日のようにD組に訪れるようになった。何度も何度も誘われて、結局カルアが折れたのである。
大柄な西木は今、前の方にいる。彼はフランカーだった。うまい選手なら覚えているはずだが、全くカルアは思い出せない。ひょっとしたら、控えだったのかもしれない。
県外から来たカルアは、誰一人部員のことを知らなかった。ただ、一人だけ空気の違うメンバーがいるのはわかった。彼の目の前にいる、金田だ。目つきが鋭く、近寄りがたい。まだ試合は始まらないが、今にも走り出しそうである。
そして、見るからに緊張して落ち着きのない者も一人。スクラムハーフのテイラーである。カナダ出身の彼は見るからにラグビーが上手そうだが、実際には「やったことがある」程度だった。今回はレギュラーの荒山が監督、控えの星野がレギュラーチームで出るため、新人チームのスクラムハーフはテイラーが務めざるを得ないのだ。
「いやあ、いやあ」
何度もテイラーはつぶやいていた。
「とりあえずはしっかりやってー」
荒山の声が響く。ホイッスルが鳴った。
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