8.5人の『女の人』とお茶会の誘い

5人は恐怖で立ち尽くしていた。

「やっぱり来なければよかった…」

夏南が絞り出すような声で言う。

「大丈夫だよ。しばらくしたら晴れるよ。とにかくむやみに歩き回ることはしないでみんなで固まっていよう」

夏南の肩を抱きながら美紅が言う。そんな美紅の手は少し震えているのに夏南は気が付いた。

「確かに本で読んだことがある」

文乃もこの状況に恐怖を感じているようだ。声が震えているのがほかの4人にも伝わってきた。

「……」

「……」

舞歌はこの状況に声をだすことできなかった。百合奈も同様だった。ただ少し涙ぐんでいるのだけは見て取れた。舞歌はのそんな百合奈の手をぎゅっと握った。そんなことしかできないが今はそれが精一杯だった。百合奈は舞歌の方を見て舞歌の手を握り返した。

5人は怖くて怖くてたまらなかった。このまま帰れなかったらどうしよう。まさかこのまま…、そんなことを考えてしまう。

霧は一向に晴れる気配はない。

5人はただ固まっていることしかできない。

どうしよう、どうしたらいい、わからない誰でもいいから助けてほしい。5人は恐怖で動くこともできなかった。

ジャリ。

美紅が立ち上がる。

「誰かいる」

「本当。助けてもらえるかも」

夏南も美紅に続いて立ち上がると

「えっ」

「うそ」

「こんなところに人?」

舞歌、百合奈、文乃の順で声が上がる。

そのうち美紅以外の4人にも誰かが歩いてくる音が聞こえ始めた。

「よかったねみんなこれで助けてもらえるよ。おーいこっちです。助けてください」

夏南が嬉しそうにそう呼びかける。

「ちょっと夏南」

美紅が止めようとしたとき5つの影が見えた。

「大丈夫だよ美紅ちゃんきっと助けてもらえるよ」

「いやでも…」

夏南以外の4人は少し不安になった。私たち以外にここに来た人は見なかった。探しに来てくれたのかとも考えたがまだそんなに時間はたっていないのにもう助けが来るなんてと考えていた。

「こんにちは。お嬢さん方。もしかして『迷子』かしら」

突如、目の前には桃色の服を着た女の人が立って行った。桃色といっても派手さのない桃色でその女の人には良く似合っていた。

「はい、霧が出てきて道がわからなくなっちゃって。あの助けてもらえないでしょうか」

夏南がそういうと桃色の服を着た女の人が答えた。

「あら、じゃあお嬢さん方は『迷子』なのね?」

「えっあっはい。迷子になっちゃって」

桃色の服を着た女の人が夏南の答えに笑顔でうなずく。

「やっぱり。ねえねえ助けてあげるから私たちのお茶会に参加しない?いいでしょ?いつもこの5人だけでお茶会してたの。たまにはほかの人ともお茶会してみたいし。ねえいいでしょ」

「助けてもらえるならお茶会に参加します。ね、みんな」

夏南が舞歌、美紅、百合奈、文奈の方を振り向いていう。

何となく大丈夫なのかと4人は考えていたが助けてもらえるならと了承した。

「決まり。じゃあ私たちの憩いの場まで一気に行きましょう。ではホイッと」

桃色の女の人が手を掲げパチンと手を叩く。

「えっ」

5人の声が重なって瞬間、10人の姿はそこから消えたと同時に霧がはれ、いつもの道に戻っていた。


−クスクスタノシミダネタノシミダネ−

どこからともなくそんな声が響いていたのは誰も気が付かない。




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魔女のお茶会 高野真 @spessartitegarnet153

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