ある女神の信者集め(ユニット:キティ)

 突如として発生した巨大地震。

 それはセントラル地下の貧民窟に大打撃を与え、ほとんどの者は建物と地面との間に脚を挟まれていた。


「ああ、なんと痛ましい。苦痛の声が、いくつも聞こえます……」


 慈悲深い彼女――キティ・チャトラーは、この地獄を見て胸を痛める。

 彼女は少なくとも人間であった頃から、ずっと変わらずにこの性格をしているのだ。


「あああ……助けて、くれ……」


 目の前にいる、倒壊した家屋の残骸に脚を挟まれて身動きがままならない初老の男に呼び止められたキティ。

 彼女は謎の機体に頼まれたことも相まって、男に向けてスッと手を伸ばした。


「あなたの苦痛を、取り除きましょう。その代わりと言っては何ですが、こことは別の世界に来てほしいのです」

「まだ死にたくない! 別世界でも、なんでも行く!」

「ありがとうございます。では、そのお体を治して差し上げましょう」


 キティが力を発動すると、残骸がふわりと浮き上がる。同時に、男の傷ついた脚はたちどころに治り――そして男は、どこか別の世界へと姿を移した。


「この調子ですね。まだまだ苦しんでいる者たちはいるでしょう。一人一人、助けて――そして、私の新たなる世界へお連れするとしましょう」


 こうして、救助活動兼自身の世界への引き込みを続けるキティである。


     ***


 ……結論として、この貧民窟にいる者たちの実に9割が、別世界への転移を望んだ。

 キティとしては、“代価”というていは取りつつも、実のところ無理やり来てもらうつもりは無かった。しかしここまでの数が異世界への転移を望むあたり、貧民窟はこの世界における現世での地獄と言えるものであることを端的に示している。


「あの機械の神に頼まれた通り、『この世界に不安を抱えている者を、優先して連れて行く』。これほど共に行動してくださる方がいれば、新世界でも心強いでしょう。……とはいえ、まだ望む方がいらっしゃるかもしれませんので、もうしばらくはとどまるとしましょうか」


 上々たる成果に満足するキティは、しかし突如として不穏なものを見る表情を浮かべる。


「…………それに、そう遠くない未来、私ですらも見たことが無い“最大最悪の災厄”が来るかもしれませんからね」




 かくしてキティは、誰にも見られることなく貧民窟から去ったのであった。


---


★解説

 これこそが“ハイネおじいちゃんへの”。

 さらりと書いたが、貧民窟人口の9割を連れて行った。有原、そして桜付きとしては、この世界の悪意が大きく減ったので大満足。


 タイミング的には、これも「天啓」と言わざるを得ない。

 このエピソードを執筆する少し前に、「ここでそう来たか! ならば合わせられるな!」と言わんばかりの状況が発生したからである。


https://kakuyomu.jp/works/16817139558839696935/episodes/16817139558997774889

 南木様のこのエピソードが、ちょうど良くも最高のタイミングで公開された。

 一部ネタバレとなるが、非地質性の大地震が発生し(これがあるためキティを向かわせる動機が出来た)、さらには冒頭で「ある人物」が貧民窟から離れる(元々貧民窟に居を構えてはいないし、貧民窟に滞在している様子も無い。これによって、かち合うリスクが激減した)のを見たために、「ここぞ!」と思い急きょ執筆したのである。


 このタイミングの最高さ、冗談抜きで私に神様か何かが憑いているとしか思えない。

 私としても、みすみす最高の機会を逃すなど有り得ないため、このタイミングで執筆・公開した。


 さて、キティにとっての目標は果たしたのだが、ぶっちゃけ有原視点における彼女の役割はまだ終わっていない。

 彼女が新世界に旅立つ時は、全てが終わった後のことになるであろう。

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