寄付を済ませた後に(神錘の代行者 vs 人質王朝 a.k.a. チャネル・ファイアボール)

 代行者一行が匿名で、こっそりと寄付を済ませた後。

 一行は隠形おんぎょうを発揮したまま、セントラルを散策していた。


「随分と発展している街だ。しかし、まだ余地はあると見れり」

「みー……カエル料理店が無いのは、ちょっと不満」

「ミミミちゃん、カエル食べるのー? いちど食べてみたーい」

「人々がこうして、笑顔で街を歩く。我が使命に殉じた甲斐があった、というもの」

「貴方は竜種ですが、こころざしは私と同じようです。もっとも、今の私にとって、人間と人外……いえ、竜種との区別はありませんが」


 思い思いに会話をする5人。

 いつの間にか、ミミミとカティンカ、そしてヴィグバルトとロイヤのペアが出来ていた。似たような立場や思想の持ち主同士であれば、自然と言えば自然な現象ではあるが。


「カエルか……」


 と、代行者がミミミの話題に食いつく。


「今少し落ち着ける場所に着いたならば、一つ食してみたいものだな。もっとも、皮をむいて焼く、程度の調理はするが」

「あげる。まだまだいっぱいあるから」


 ミミミが目を輝かせて、代行者を見つめる。カエル肉というのは、案外美味びみなものなのだ。


「……む?」


 と、代行者は一人の男とすれ違う。


「どうしたの?」

「今の男……気になるな。問うとしようか」


 代行者はこっそりとSGエネルギーを男にまとわりつかせてから、神錘を垂らす。


「我はわれが指し示した者が、死すべき者かを問う。神錘よ、示したまえ」


 その言葉に続き、神錘は時計回りに回る。

 そして、石の部分が――黒ずんだ色に染まった。


「……やはり、死の運命さだめある者だったか。であれば、躊躇ちゅうちょの必要は無し」


 代行者は右腕を掲げると、手のひらを自身に引き寄せるようにした手招きにも似た動きをする。


「少しばかり目立つが、構わぬ」


 次の瞬間――男が前のめりに転倒し、そして何かに引きずられるようにして代行者の元まで連れていかれる。


「あ、あああ……!? 誰か、誰か助けてくれ!」


 叫び声を上げる男。しかしその声は、誰の耳にも入らない。

 やがて男――チャネル・ファイアボールが代行者の足元に来ると、代行者はいつものように名乗りを上げた。


「我が名は、神錘の代行者なり。汝に、死を授ける者である」

「ヒ、ヒッ!」


 死を授ける――そう聞いて、チャネルが青ざめる。


「俺を、俺を殺すのか!? そ、そそ、そうなれば……この世界の損失だぞ」

「笑止。汝が魂、既に知れり。数多の罪なき者を人質とし、対価を払わずして労役を提供させる。そして汝が私心によりて、私兵団を組織せんと目論むとはな。ゆえに汝が運命さだめは歪み、ここで死を授けることとなった。それにしても、成程なるほど、これも我らを導きし……ということか」

「ごちゃごちゃ、変なことを言ってんじゃねぇー!」


 恐怖に表情を染めた――一部は自身の罪業を明らかにされたのもある――チャネルが、拳銃を代行者に突きつける。

 威力、それに伴い殺傷力は低いが、これでも銃は銃だ。


「死ねぇっ!」


 弾倉がからになるまで、引き金を引き続けるチャネル。

 しかし――


「気は済んだか?」


 SGエネルギーの障壁は、小口径の弾丸程度で貫けるほど容易なものではない。

 代行者は当然のように、平然としていた。


「では、いざ」


 代行者は、チャネルの頭を鷲掴みにする。


「ま、待て! 俺が死んだら、お前の言う“罪なき者”が死ぬ――」

「無用なる警告だ。黙るが良い」


 手始めにチャネルの口や舌の筋肉にSGエネルギーを送り込み、余計な口が利けないように黙らせる。とはいえ、これで殺すつもりはなく、最低限の呼吸用の筋肉は残してあるが。


「ふむ、思ったよりは複雑に張り巡らせたものよ。しかし、読み解けないことは無い」


 やがて代行者は、チャネルの持つ特殊能力「デススイッチ」の全体を把握する。


「一つずつ、念入りに潰していこう。安心して死を授けられるように」


 代行者の言葉に、チャネルは内心で戦慄する。


(まさか、こいつ……俺の“デススイッチ”を無効化しに!? ありえん、ありえないはずだ!)


 チャネルの祈りじみた思考は、しかし代行者がことごとくを否定する。

 代行者はSGエネルギーを次々と送り込み、最後の一つに至るまで、デススイッチの仕掛けを無効化したのだ。


「さて、時至れり。死を受け入れよ」

「ヒッ……」


 喉の奥から漏れ出たチャネルの悲鳴を、しかし代行者は無視する。

 今回は毒のように、じわじわと自身の感覚が失われていく死を、彼は授けている。その間、ずっと彼は、チャネルの頭を掴んでいた。


 やがて5分ほど経つと、チャネルは絶望を貼り付けた表情をしながら、死を迎えたのである。


「これで良い。だが、此度こたびは、この者の頭だけは残さねばな」


 代行者は一度チャネルの死体を床に放ると、右腕部のブレードを伸長させる。


「せいっ!」


 切り裂くが早いか、見事なまでに綺麗な断面を伴って、チャネルの首と胴体は分離された。


「あとは腐らぬようにしておくか。あぁ、血は抜いておくとしよう。腐る元だ」


 もはや必要無い胴体を、SGエネルギーによって消失させる代行者。

 残した首をむんずと掴んだ瞬間、カティンカが尋ねた。


「それ、どうするのー?」

「巻き込まれた罪なき者たちの、心を穏やかにするがゆえ。さて、政庁に相当する場所に、放り込むとしようか」




 代行者は二度の転移により、政庁における賞金首を管理する部門に首を置いて――その際、「ジャッジキル社の全従業員や関連のある者たちに伝えよ」とのメッセージを残して――から、ミミミやカティンカたちの元へ戻ったのであった。


---


★感想

 雑兵ぞうひょう

 強さそのものより良心をえぐってくるギミックが厄介な敵だが、代行者にとってはそんなもの関係無かった。


 代行者としては、そもそも「無策で殺せば、罪なき者が死ぬ」という事実を知ってもなお、チャネルを殺していたであろう。「死の運命さだめが授けられた者に、死を授ける」ことこそが彼の使命であるのだから。

 なお無策で殺した場合、一度死んだ者たちは桜付きの手引きで蘇生させられるので、どのみちチャネルの「デススイッチ」の意味が無かったりする。そのためのチート枠、そのための禁止カード枠。


 以下、他ユニットの場合。

 ゲルハルトの場合、相当にためらうが覚悟を決めた上でチャネルを殺す。デススイッチを知らない状態であれば一瞬で決着が付く。

 ゼルシオス君ならば、「顔も知らねぇ奴らのために、てめぇという脅威を見逃しちゃおけねぇ」と、人質なにそれおいしいのとばかりに速攻で殺す。チャネルから伝えられても殺す。

 桜付きの場合、今回と同じ結末になっていたので割愛。

 とりあえず、「誰と戦うにせよ、単なる勝ち負けなら勝って当然な相手」というチャネルへの評価は覆らない。


 最初は「代行者に生殺与奪の権利を握られて、言いなりの奴隷になる」展開にしようかとも考えたが……罪業があまりにも重かったのでやめた。

 代行者もいちおうFFXXツヴァイエフ・イクスクロイツ所属。なので、有原としては、こんな許しようも救いようも無い外道をFFXXに入れたくない。協力させるにしても、「またこの世界に反旗を翻しそう」と思ったので、結局(代行者のいた位置的に)辻斬りよろしく始末されてしまった、というオチである。ちょっとだけ哀れ。


 ところで、チャネルの作者様である負け犬アベンジャー様は、見たところ「主人公たちに対してよりも、リア様の世界に対して脅威度が高い敵ユニット」を多く作られているような気がする。単なる強い弱いを超越した別種の厄介さがあるため、そういう点では攻略のしがいがあるというものだ。

 おかげさまで、有原陣営――特に代行者――が向かうに不足しない。最近ちょっと動かしすぎているのでワンパターンになりやしないか、という危惧はあるが。

 それでも、「リア様の世界における脅威の排除」は目的であり有原自身のポリシーでもあるため、ストーリー的においしくなくてもは可能な限り排除ないし味方化する。キティとか、やまおかやとか。


 あんまりやりすぎると、冗談抜きで「代行者TUEEEE」になるかもしれん。最初から強さマシマシの設定を組んでいるので、そう思われても「むべなるかな」と返すしかないのだが。

 あと、代行者一行のいた位置が、チャネルにとって最悪だった。メタ的にも「あ、ついでにこいつ殺せるわ」と思われた結果ゆえなので、彼はその点だけは私に抗議してもいい。全ては巡り合わせなのだ。

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