異変察知(ユニット:ゲルハルト&ゼルシオス)

 それからの流れはあっという間であった。

 ハルカの手下が一分と経たずにデザインを決めてしまうと、それを基に艦内官給品の布切れとマーカーペンで仮の旗を作ったのである。


「イイじゃねぇか! 二つのFエフに二つのXイクス、これなら立派な象徴になるぜぇ!」


 ごくシンプルなデザインながらも存在を主張する旗は、ゼルシオスの求める旗印としては最高のものであった。


「では、手すきの者にエンブレムを塗装していただきましょう。そのためには、どこか停泊できる場所を探さなくては」

「だな。ゲルハルト、どっかいい場所知ってるか?」

「ああ、確かこの辺りに翼人自治区があるはずだ。その外れの空き地がいいと思う」

「地形探査をしてみます。安全に停泊できる土地を、お借りしましょう。それまでは、低速低高度ての巡航といたしましょうか」


 方針を決めたアドレーアは、腕の端末で「ライラ」と呼ばわる。


『はい、アドレーア様』

「ドミニアが安全に停泊できる場所を探してください。それまでは、低速低高度での巡航とします」

『かしこまりました』


 命令を承服したライラ。

 その様子に満足したアドレーアは、「では、ゆっくりしましょうか」とつぶやいた。


     ***


「……!」


 ドミニアが低速・低高度巡航状態に移行してから。

 エヴレナは唐突に、甲板へ向けて走り出す。


「おいおい、なんか面白そうなことでもあったかぁ?」


 ゼルシオスは軽口をたたきながらも、エヴレナをゆっくり追いかける。捕まえるつもりがさらさら無い。

 ゼルシオスが見守る中、エヴレナは甲板から身を乗り出し、そして飛び降りたのであった。


     ***


「すんげぇ視力だな、エヴレナ。よく見つけたもんだぜ、その子らを」


 エヴレナが救助したのは、朱色の和装をした黒髪の少女と、だぼっとした白シャツに短パンを履いた銀髪の少女。


「当たり前でしょ。竜種の視力、舐めないでよね」

「格が違うぜ。……んで、その子らは誰なんだ?」


 自己紹介を求めたゼルシオスに対し、エヴレナが代わりに答える。


「黒髪の子がさちちゃん。銀髪の子が白埜しらのちゃんよ」

「ふぅん……。幸ちゃんはいかにも『さち』って感じだぜ。幸せオーラがビンビンしてらぁ。そんでもって、白埜ちゃんは……底が知れねぇ」


 ひと目見ただけでただ者ではないと見抜くのは、ゼルシオスにとっては日常であった。


「……とりあえず、入って落ち着け。ヒルデ! ハルカ! 世話ぁ任すぜ!」

「もちろんです、ご主人様!」

「頼まれたからには、このハルカちゃんがキッチリやるぜぇ!」


 メイドたちに二人の少女を預けたゼルシオスは、エヴレナに「来い」と促した。


     ***


「アドレーア。エヴレナにひとつ、端末よこしてやってくれや」


 向かった先は、艦長室である。

 先ほどのエヴレナによる突発的行動を受け、ゼルシオスは通信手段の確保における必要性を感じていた。


(そんな大きな心配じゃあねぇが、なんか起こる前に備えとかねぇとな)


 ゼルシオスは不確かなれど、エヴレナの存在を重要に思っていた。物理的に紐で縛るような真似は望んでいないとしても、コンタクトを取れる手段を確保し、はぐれる事態を避けようと動いていたのである。


 ……と、突如として閃光がまたたいた。


「何だ!?」


 ゼルシオスですらも予知出来なかったタイミングで、である。

 閃光が収まるや否や、ゼルシオスは近くの窓に、自らの顔をへばりつけんばかりにして外を見ていた。


「おいおい、マジかよ……なんだあの戦艦は」


 ゼルシオスが窓を指でさし、覗くように促す。

 それを見たアドレーアとエヴレナも、同様にして驚愕の表情を浮かべた。


「しかも見た感じ、なんかオーバーロードしてそうなんだよなぁ。アドレーア、絶対に撃沈させるなよ。それと非常態勢発令な」

「かしこまりました」




 アドレーアは急ぎ、艦長室から艦内一斉放送で非常事態を発令したのであった……。


---


★解説

 本エピソードでカットした視点がコチラ。ソルト様作です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885714804/episodes/16817139558831641488


 これがあるためにゼルシオス君は、エヴレナ様への端末の取り付けを決めたほど。

 もともとエヴレナ様に取り付ける構想はありましたが、結果的に理由付けとして最高のイベントとなりました。


 それでもって、ソルト様陣営からさちちゃんと白埜しらのの二人をお預かりすることに。これもまさに「フロインデ」です。

 ゼルシオス君が指示したメイドですが、「ヒルデはともかく、ハルカちゃんは大丈夫か?」と思われる方もいるでしょうが……ハルカちゃんは性格的に、「口は悪いけど、実は面倒見がとても良い」と思っています。でなけりゃ手下もいないはず。まぁ、何かあればメイド長のライラさんがすっ飛んでくるでしょう。


 あ、あと余談として。

 フロインデ・ファータ・イクスクロイツ連合の略称に追加案が。「ツヴァイエフ・イクスクロイツ(連合)」ですね。通りがいいので、作中世界においての通称ではこちらがはやるかも?


 さて、次は6話ぶりに戦闘です。

 ゲルハルト、君も出撃するんだ。

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