止めてやるぜ!1(ゲルハルト&ゼルシオス vs 灼熱戦艦 a.k.a. 占領艦『フィラデルフィア号』)

「総員、第一種戦闘態勢! 繰り返す、総員、第一種戦闘態勢!」


 アドレーアによる指揮が始まると、艦内は一気に慌ただしくなる。戦闘員であれば配置につき、非戦闘員は安全な艦内シェルターに退避するからだ。


「攻撃目標、大型浮遊戦艦! ただし、撃沈はこれを禁じる! 繰り返す、絶対に撃沈するな!」


 普段の可愛らしい見た目からは想像できないほどに、声には威厳が満ちていた。


「アドシア部隊は出撃! 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェも同じく!」


 堂々たる声で命令するアドレーア。

 しかし、ドミニアの艦載機であるアドシアのパイロットは、現状ゼルシオスだけであった。その不足を補うために赫竜エクスフランメ・ドラッヒェであるフレイアとヒルデも戦闘要員として出撃させてはいるものの、火力はともかく頭数には不足が生じているのが現状である。


「敵艦の主砲に注意せよ! アドシア部隊は最優先で敵砲座を破壊、撃たせるな!」


 必要事項を十分に伝達したアドレーアは、以降の指揮をライラに任せて情報収集に注力したのであった。


     ***


 アドレーアの指示と同時に、ゼルシオス、そして合流したゲルハルトは既に格納庫へ向かっていた。

 しかし、ゼルシオスの足は、愛機であるヴェルリート・グレーセアには向かっていない。


「リヒティアに乗るつもりか?」


 そんなゼルシオスに、フレイアが話しかける。


「ああ。でねぇと突入できねぇからな。最低限アドシアじゃねぇと、とてもじゃねぇが砲火に耐えれるとは思えねぇ」

「誰もいない機体なら、私が背に載せて預かるというのに。そもそも、お前以外には乗れないだろう、ヴェルリート・グレーセアは」

「馬鹿言え、だからこそだよ。リヒティアなら、てめぇフレイアかヒルデでも乗れっから、それで退避させるんだ。いざとなったら俺ぁ、空中を漂ってでも逃げるぜ!」


 空中からふわふわと漂うように逃げるのは、重素臓ゲー・オーガンを持つゼルシオスならではである。

 とはいえ、ゲルハルトは見るに見かねていた。


「回収は任せろ、ゼル。おれのアズリオンならば容易いだろう」

「なら、甘えるぜ。それに、そっちの方が逃げ足もはえぇだろうしな」


 一般的な機体でも全高18m程度あるアドシアでは、戦艦内部に機体ごと突入できるとは到底思えない。そもそもアドシアは、突入用の兵器ではないからだ。

 そのためゼルシオスは、最悪アドシアを使い捨てにするつもりでいた。そこで適任なのが、高級機であるがドミニアに多数配備され、しかもパイロットがほぼ不在のために余っているリヒティアだったのだ。


 やがて、白を基調に金と赤で飾られた――つまるところドミニアとほぼ同様の配色をされた機体リヒティアの一機に、ゼルシオスが飛び乗る。


「ゲルハルト、先に行け! フレイアとヒルデも続け!」

「了解!」

「承知した」

「ご主人様、待ってますからね!」


 遊撃隊隊長――隊員はゼルシオス、フレイア、ヒルデの3名だけだが――であるゼルシオスは、意外にも指揮官適正を有していた。

 大軍の指揮をするには技量も戦略眼も劣るが、アドシア小隊――一般的に4機――レベルであれば十分な指揮を可能としている。


 そして、出撃戦力はゼルシオスの搭乗するリヒティアを含めて4機。正確には2機と2体だが、数の上では彼の指揮能力を発揮するにあたり十分であった。


 ゼルシオスが起動手順を進めている間に、ゲルハルトとパトリツィアのアズリオンが、続いて竜の形態となったフレイアとヒルデが発艦する。


「オーケイ、行くぜ!」




 そして起動が完了したゼルシオスは、リヒティアをカタパルトの上に固定させ――ヴェルリート・グレーセア搭乗時と同様に、発艦を完了させたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る