鋼鉄の犬(その6)
家に帰るとすぐに捜査会議を開いた。
会議といっても可不可とふたりだけだが・・・。
「溝口さんの依頼は、これで三つ目か・・・」
「こんどは、誘拐された娘さんの救出ですね」
「時給三千円、成功報酬百万円。ただし有効期限は3日。・・・娘さんの居所を探すのは簡単だろう」
「そうでしょうか?」
「大麻ビジネスを裏で糸を引いているのは、工藤が以前に所属していた暴力団だ」
「そう簡単に決めつけていいのですか?・・・覚醒剤はともかく、大麻に手を出すのは、今は素人だけらしいです」
可不可は、いつの間にそんな情報を手に入れたのだろう?
「暴力団ではないとすると、・・・どうする」
「乾燥大麻を運び出しに来た若い男の匂いと画像は、リンクしてインプットされています。そこからたどってみてはいかがでしょうか」
犬にリードされて会議が進行するのが、どうにも腹立たしい。
「溝口さんの娘さんを誘拐してどうする。・・・警察に駆け込まないようにしておいて、証拠の大麻を処分するつもりだろう。大麻の栽培は、5年から7年の懲役刑、未成年者略取誘拐は10年以下の懲役刑だ。工藤は、分が悪い方を選んだようだね」
可不可に口を挟ませないように、知っていることをあれこれ早口で並べたてたが、
「未成年者略取誘拐は親告罪です。溝口さんが工藤を告訴しなければ罪には問われません」
と、言い返されてぎゃふんとなった。
「うん、まずその男の線を追うことだね・・・」
口惜しいが、ここは可不可の言うとおりにするしかなかった。
「ワゴン車のナンバープレートが偽造とか盗難車のものでなければ、所有者をすぐ割り出せますよね」
などと可不可に言われる前に、陸運局のHPにハッキングして所有者を調べた。
所有者の住所は、溝口のアパートからさほど遠くない霊園の近くだった。
何せ百万円がかかっているので、すぐに出かけることにした。
大きな霊園のすぐ近くの中古車販売もする自動車修理工場に着いたのは、夜の10時過ぎだった。
霊園の入口近くに車を停めて、オープンスペースに売り物の中古車を5台ほど並べた自動車修理工場のガレージの前に立った。
工場の二階の窓から灯りが漏れていた。
横の非常階段に回り、足音を忍ばせて登った。
登り切った踊り場の突き当りに扉があったが、その手前の窓の下りたブラインドの隙間から中が見えた。
奥のキッチンのコンロでは大鍋が煮えたぎっていた。
乾燥大麻を積み上げた広いテーブルの片隅で、大きなマスクをした3人ほどの若い男が、学校の科学実験のように、ビーカーに溶剤を流し込んだり、大きな茶こしでろ過したりしていた。
霊園に面した向こう側の壁のベンチレーションがフル回転していたが、強烈な悪臭は窓越しにも匂って来た。
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