第76話 2-3-2 「俺、円井に惚れたから」

2-3-2 「俺、円井に惚れたから」 耳より近く感じたい2


ーー週明け月曜日(5/18)


 片山に中條のことを話した音波は、ホームルームが始まる前に、中條に返事をする。


「おはよう、中條くん」

「ああ、円井おはよう。

 早速、この間の返事くれるの?」


「うん、私、協力する」

「本当? ありがとう。

 凄いの作るから!」


「うん、でもお願いがあるの」

「何? 言ってみて」


「手伝う日は事前に知らせてほしい。

 当日いきなりなのは困る。

 あと、駄目な日は駄目って教えるから」


「ああ、わかったよ」

「うん」


 中條がこちらの要望を聞いてくれたので、音波は安心し、自分の席についた。


ーー昼休み


 音波は1年の時同じクラスだった女子とお昼ごはんを食べるため、席を移動する。

 中條は、それを確認し、教室を出ていった。



「おーい片山、呼んでるぞー」


 片山は面倒くさそうに、呼ばれたほうに歩いていく。


 声をかけた男子に聞く。

「俺を呼んだの、誰?」


「俺だよ、片山」


 ドアのところに立っていたのは、中條だ。


「…中條」

「屋上まで付き合えよ、話がある」

「…」

 片山は先に歩く中條について行く。


ーー

 壁により掛かり、腕を組む片山。

「…話って、何」


 中條は、片山に背中を向けたまま答える。

「俺が夏のコスプレイベントで作る衣装、円井に試着して手伝ってもらうから」


 先週末、音波が話していたことかと片山は思った。

「ああ、聞いてる」


 中條が振り返る。

「聞いてる? そうか、聞いてるならいい。

 円井、可愛いよな、同じクラスになれてラッキーだぜ。

 お前はクラスが別になって残念だろうけどな」


 片山は気分を害する。

「…中條、お前…俺に何が言いたいの?」


 中條は片山に近付く。


 そして、言う。

「俺、円井に惚れたから」


「は?」

 片山は、いきなり発せられた中條の言葉に、耳を疑う。


「最初に話をしたときに返事を待たされて、無理かなって思った。

 だけど今朝、円井がOKしてくれたから、俺は本気でいく。

 学園祭までに円井を落とす!」


「なっ!!」


 片山はカッとなり、中條の制服の下襟を掴む。

「お前、何言って…」


「彼女とかいらねーって、言ってたよなぁ片山。

 そりゃあそうだよな、女がダメで怖いんだもんな」

「!っ、」


 中條は自分を掴んでいる片山の手が緩むのをみて、反転攻勢に出る。


ドォッ!

「くっ…」


 緩んだ片山の腕を掴み、そのまま壁に押し当て、反対の手で片山の肩をグッと押し掴む。


「お前が今、円井と付き合ってても、俺には関係無い。

 俺、欲しいと思ったら手に入れたい主義だから」


 中條は、ニヤリと笑う。


「それに、お前まだ全然進んでないんだろう?

 手を繋いで、その先は?

 俺は、悦ばせることが出来る…

 フン、安心しろ、夏休み前までは何もしないから」


 中條は鼻で笑う。


「っ! 中條、貴様…」

 片山は中條を睨む。



「あ、そうそう、円井に言われたよ。

 手伝う日は事前に知らせろ。

 当日呼び出しはお断り。

 円井が駄目な日は絶対駄目。

 だってさ。

 駄目な日って何だろうな」

 

 片山は劣勢状態のまま、声を荒げて言う。

「くっ…、離せっ! 俺はっ、」


 片山の言葉を待たずに、顔を近付け話す中條。


「片山、お前恋人ごっこして満足してるってワケじゃないんだろう?

 ま、恋人同士ってのを、お前がどう捉えてるかは、知らねーけどな」


 中條は、片山の両足の間に片足を入れ、片山の首に息を吹きかける。


ビクッ!!

「あっ!」

 体が反応し、片山はギュッと目を瞑る。


「ハッ、情けねえ、

 不利なお前と勝負するんだ、俺にも何かしらのペナルティは付けないとなw

 …円井のこと本気で好きなら、ちゃんと受けて立てよ」

「っ…」


 中條は足を外し、片山から手を放す。


「じゃ、そういうことで。

 衣装合わせは6月からやるけど、

 俺は今日から戦闘モードに入るから」


 そう言って、中條は先に屋上から出ていく。


 中條に、迷走している自分の気持ちを見透かされたようで、片山はまともに反論できずに終わる。


「……」


 ひとり残った片山は、壁にもたれ掛かったまま空(くう)を見る。

「…音波、」


(…何で、よりによって何故…音波なんだ、中條…)


「こんな身体じゃなければ、俺は…、っ!?」


ゾクッ!

 瞬間、悪寒が走る…

「うっ、」


ザアーッ、

 風が吹き、片山の髪を巻き上げる。


 片山は、自分の手で腕を掴み、目を閉じる。


(…やっと想いが通じ合えたばかりなのに…、

 何でこんな…ゆっくりとじゃ、駄目なのか?)


「何故、煽るんだ…」


 この日から、片山は次第に焦り始めていく…。

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