第77話 2-3-3 初めての電話

2-3-3 初めての電話 耳より近く感じたい2


ーーその日の夜、


 アルバイトから帰ってきた片山は、シャワーを浴び部屋着に着替える。


 濡れた髪の毛のまま首にタオルを掛け、キッチンに行き冷蔵庫を開け、閉める。


「…何も作りたくねぇ…」


 ヤカンに水を入れガスコンロの点火スイッチを押す。


 冷蔵庫横の棚からカップ麺を取る。


(クラスが別になると、話すことも、会う時間もこんなに減るのか…


 たった1ヶ月ちょっとしか経ってないのに、参ったな…)


 沸騰したヤカンのお湯をカップ麺に注ぎ、スマホで3分タイマーを設定する。

 待っている間、DOSE.用アカウントを開く。


「…、ナミって人が言ってたとおりだ」


 Dメッセージを開く。

 既読は付いていない。


(…中條のやつ、音波…)


ピピピッ、ピピピッ、


 3分経った。

 片山はスマホのタイマーを止めた。



ーー同じ頃、


 音波は佐藤とチャットをしていた。


円井

「片山くんの誕生日、知ってる?」


佐藤

「5/30

 え、知らなかったの?

 てかお前ら、あれからどうなの?」


円井

「え、誕生日もうすぐなんだ

 朝、たまに一緒に登校してるけど

 それ以外なかなか会えない」


佐藤

「チャットは? してんの?

 電話は?」


円井

「たまに、…電話ではまだ無い」


佐藤……入力中


円井

「佐藤くんと実花は、

 どのくらいしてるの?」


佐藤

「毎日?

 あとチャット通話」


円井……入力中

(えっ、毎日チャットをしてるの?)


佐藤

「円井からはチャットしないの?

 成斗、チャットしてこないの?」


円井

「殆んど私から」


佐藤……入力中


円井

「今日昼休み終わるとき

 片山くんが教室に入ってくの見たんだけど

 なんか変だった」


「片山くんは了解してくれたけど

 やっぱり面白くないよね

 私が他の男の子に協力するの」


佐藤

「何それ 詳しく」


 音波は、中條の話をした。


佐藤

「それって…

 手伝う日は実花も誘えよ

 話しとくから


 服合わせするだけなら

 友達と一緒でも

 かまわないだろ


 なんなら成斗と手伝えば?

 そしたら一緒にいられるし

 一石二鳥でしょ」


円井

「片山くん、月から金バイトだし

 迷惑かけられないよ」


佐藤……入力中

佐藤

「彼女が甘えてくれるの

 彼氏は嬉しいんだけど?」


円井……入力中


佐藤

「成斗は女性恐怖症

 接触恐怖症だから


 円井のおかげで

 少しはよくなったけど

 まだビビってる


 多分あいつ葛藤してる

 お前がリードしてやって」


円井……入力中

(私がリード…)


円井

「うん わかった

 佐藤くん

 本当にありがとう

 長くなってゴメンね」


佐藤

「いいって

 実花には言っとくから

 念の為


 中條と二人きりにはなるなよ

 お前は成斗の彼女なんだから」


円井

「うん わかった」


佐藤

「おう 」


(私からもっと話す時間を作らなきゃ、片山くんの事分からないままだ)


「よし!」


 音波はスマホの電話帳を開く。

 そして、電話をかける。


プルルル…

プッ、

「…もしもし? 片山くん?」


[…おと…は?

 どうしたの? こんな時間に

 何か問題あり?]


 片山の声は少し焦っている。

 音波のことを心配しているのだ。


「ううん、大丈夫」


[…そう、よかった

 …どうかした?]


「今日、昼休み終わる頃、

 片山くんが…凄く辛そうな顔して教室に入っていったの見たから、気になって、心配で、電話したの」


[……そうか、心配かけてごめん]


「うん、あと…声が聞きたかったの」


[…俺も、音波の声が聞きたかった]


「片山くんの声が、すぐ近くで聞こえるの、なんかドキドキする」


[…うん、俺も]


「あのね、クラスの子たちとも仲良くなったから、そろそろ一緒にお昼食べたい」


[…音波、]


「明日から、屋上で食べたり、

 二人で曜日決めたりとか。

 二人で色々、出かけたりとか」


[…音波、うん、わかった]


「あと、…その、」


[…うん、なに?]


「中條くんのこと…」


[! ……ああ、]


「片山くんの気持ち考えないで、

 ごめんなさい。


 でも、話を聞いたから、

 大切な人の為に何かしたいって行動するのは、よく分かるし、私も同じだから、出来る範囲で手伝いたい」


[…]


「実花とか、1年の時も同じクラスだった子がね、今日聞いたら、コスプレとかそういうの好きなんだって分かったの。

 だから、手伝う時はその子と一緒にいるようにする」


[…音波]


「どうしたって、片山くんには心配かけちゃうわけだけど…」


[…音波、わかった。

 俺は音波を信じる]


「片山くん…ありがとう!」


[…明日、朝、駅で待ってる

 …音波の笑顔、早く見たい]


「うん!

 じゃあ、おやすみなさい」


[…ん、オヤスミ]

プツッ


(やっぱり話さないと駄目だ。

 悩んでるだけじゃ、進まない。

 気持ちを言葉にしないと…)


 音波は待ち受け画面を、あの日の夕焼け空に変更した。

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