第68話 2-1-4 「告白だけじゃ…」

2-1-4 「告白だけじゃ…」 耳より近く感じたい2


ーー 一学期2日目


(ああ…あまり眠れなかった)


 音波は昨日の梶の話や、メッセージの誤送信などを思い出して、ため息をつく。

 電車を降り、改札を抜けて階段を下りる。

 音波は立ち止まり、ボソッと言う。

「はぁ…、ツラい」


「何が辛いの?」

「え?」


 自分の独り言に言葉をかけられて、声のしたほうを見ると、


「かっ、片山くん?」

「おはよう、音波」

 登校時に会うことが粗無かった片山が目の前にいるのである。


「どうしたの?」

「あー、音波を待ってた」

「待ってた? 何で?」

「歩きながら話す」

 そう言って、片山は歩き出す。

 音波は、朝から待つほどの話とは何だろうと緊張しつつ、片山の後ろについて歩く。


 駅を出てすぐ、1つ目の信号が点滅しだしたとき、片山が口を開いた。


「昨日、啓太に言われた。

 告白だけじゃ足りないって。

 本当は昨日のうちに伝えたかったけど、色々考えてたら日付変わってて…連絡出来なかった」

「うん」


 信号が赤に変わり、二人は止まった。


「音波、手を出して」

「手? はい」

 音波は左手を出す。


 片山は右手で下から支えるように握り、真っ直ぐに音波を見る。


「俺たちは恋人同士です。

 付き合い始めて一週間? で、

 音波は俺の彼女で、

 俺は音波の彼氏です」


「片山くん…」

 音波は驚いたような恥ずかしいような顔になる。


「音波、不安にさせてたらごめん」

「…、」

 音波は黙っている。


「…音波?」

「片山くんって、いつも周りを気にしないんだから…」


(でも、こうやって言葉で安心させてくれる…)

「え?」


「…ありがとう。

 私も同じ気持ちだよ///」

 音波は真っ赤になった顔で片山を見上げる。


「…うん//」

 少し照れくさそうな顔で、音波の頭を撫でる。


 信号が青に変わった。


 二人は手を繋いで歩く。


「片山くん、何で今なの?」

 音波は不思議に思った。

 気持ちを確認し合うだけなら、わざわざ人の多い登校時でなくても善いはずだ。


「あー、牽制?」

「ケンセイ?」

「そう、音波は俺の彼女っていう牽制」

「えええ?」

 音波は驚く。


「音波のこと見とけって、啓太に言われたから」

「えええ…」


 2つ目の赤信号で、再び止まる。


「あと、朝一緒に登校すれば、こうやって話出来るかなって。

 俺、部活とバイトやってるし。

 兄貴のバンドのヘルプ入ったら、時間取られるからな。

 毎日は無理かもしれないけど」


「うん、そうだね。

 いっぱい話そう」

「ああ」


 音波と片山は、校門を通り下足置場に着くまで、手を繋いだままだった。


 音波と片山は、2年の教室がある三階まで階段を上がり、音波の1組の教室前まで来る。

「今日まで午前だけだから、終わったら保健室前の木のところで待ってる」

「うん、わかった」

「…ん」

 片山は右手をヒラヒラさせて、2組の教室に入っていった。


 音波が教室に入ると、クラスの女子がザワつく。


(やっぱり、こうなるよね…)


 音波は様々な面で…覚悟した。


 クラスの女子が音波に訊く。

「円井さんって、片山くんと付き合ってるの?」


 音波は顔を赤くしながら頷く。

「う、うん///」


 クラスの女子がどよめく中、1年の時に同じだったクラスメイト達は、口々に言った。


「やっぱり付き合うことになったんだ」

「いつ、くっつくのかと思ってた」

「片山のやつ、彼女いらないって言ってたのに」

「告白されても、片山が断り続けてた理由は、円井だったんだ」


 これを聞いて、音波は驚いた。


(えええ? 私たち、みんなからはそんな風に思われてたの?

 でも、片山くんが告白を断ってたのは、違う理由だけど…)


 思わぬ援護の声に、音波は助かった。


一方、片山の方は、


「円井さんて、片山くんとどういう関係?」

 というクラスメイトの質問に、

「あー、彼女」

 と公言した。


 今までは、人の恋愛の話も興味を持たなかったし、他人事だと思っていたので、自分へのクラスの連中からの質問攻めに辟易とするが、片山は


「あー、俺、眠いから」と言い、過度の追求から逃げる。


 そして、1年の時同様、女子に話しかけられないで済むように、休み時間は極力”うつ伏せて寝の体勢になる”、を徹底する。


 去年の学園祭の宣伝で全クラス回って顔が広い佐藤も、頻繁に片山のいる2組に遊びに来るので、1年の時ほどではないがガードは固い。


 後日、片山は他のクラスの女子に呼び出しを受けたり、告白や質問をされるが、


好きな人は_

 「あー、いる」

付き合ってる人は_

 「いる」

告白されると_

 「あー、俺、彼女いるから無理」

 と、即答した。


ーー放課後


 音波と片山は一緒に帰る。


 そして、お互いに話す。


「今日、クラスのみんなから色々聞かれた。

 音波は?」

「うん、私も聞かれた」


「俺たちのことで、人がこんなに騒ぐとは思ってなかった」

「それは、片山くんがカッコいいからだよ」


「…女はみんな見た目だけ、本当の俺を知らないから」

「片山くん、」

「音波が知ってくれるから、俺はそれで充分だ」

「…うん」


 片山は、音波の方を向いて言う。

「音波、」

「何?」


「…宇野の時みたいに、呼び出しとかされたら、すぐ教えて。

 音波に怖い思いさせたくない」


「片山くん、うん、分かった。

 ありがとう」

 音波は笑顔で片山を見上げ、頷いた。


 片山のスマホがメッセージの受信音を鳴らす。

 片山は上着のポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。


「メッセージ、兄さんからだ。

 今日、時間指定で荷物が届くらしい」

「へえ、そうなんだ」


「音波ごめん、バイトまで時間あると思ったけど、帰らないといけなくなった」

「うん、大丈夫だよ。

 また明日話そう」

「うん」


 二人は改札で別れる。

「じゃあ、また明日な」

「うん、また明日ね」


 片山は、右手をヒラヒラさせた後、階段を上がっていく。


 音波はそれを見送り、自分も階段を上がる。

 そして、思う。


(片山くんは、お兄さんの手伝いとか、よくするよね。

 前に、佐藤くんが言ってた、


 『あいつ、兄貴には頭上がらないから…』


 あれは、どういう意味だろう?)


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