第67話 2-1-3 佐藤のレクチャー

2-1-3 佐藤のレクチャー 耳より近く感じたい2


ーー駅構内


「俺、成斗の家に寄るから。

 実花みか、またな」

 佐藤は肘で片山の腕を突っつく。

「え、」


「わかった、啓太けいたまた明日ね」

「片山くん、佐藤くん、またね」

 音波と梶は、ホームに向かうため階段を上がっていった。


 片山が怪訝な顔をして聞く。

「啓太、どうしたの? 寄るって」

「お前に話したいことがあるからだよ」

「話? 音波たちの前じゃ駄目なのか?」

「駄目だから行くんだよ、お前んち」

「あ、ああ…?」


 電車に乗り、兄、大智と住む片山のマンションに移動する。


ーー片山のマンション


「で、話って何?」

 片山は、佐藤と自分の分のコーヒーカップをテーブルに置き、座る。

 佐藤は神妙な面もちで話し出す。


「成斗、さっきさ、両想いになったって言ってたけど、円井に好きって言ったんだろ?」

「ああ、言った」


「で、円井もお前が好きだって言ったんだよな」

「ああ、そうだ」


「その後は?」

「は? あと?」


 片山は、佐藤が何を聞き出したいのか分からない。

 取り敢えず時系列に説明する。


「ありがとうと言った。

 音波もありがとうって言ってくれた」

「うん、それで?」


「手を繋いで駅まで送った」

「え…、お前、それ…」


 佐藤はハアーッと息を吐く。

「お前…、女子にあれだけ散々告白されといて、自分は言ってないとか…ありえねぇ…」


 片山は困惑気味に言う。

「何? 分からない」


「お前、恋はしないとか言ってたし?

 分かってないのかもしれんけど…。

 普通、好きです、の後は、付き合って下さい、だろ」

「………あ」


「女の立場から見れば、円井は今、宙ぶらりん状態だぜ?

 付き合ってんのか、恋人同士なのか、分からん。

 女って、ちゃんと言葉で伝えてやらないと、不安がるぞ」

「…そうなのか」


 片山は俯き、考える…。

(こういうのを、言葉が足りないっていうのか?)


 佐藤が頭を掻きながら言う。

「ま、俺の場合は告白通り越して、彼女になってよ、だったけどなw」


 佐藤は諭すように話を続ける。

「あーあと、1年の時みたいに俺ら一緒じゃなくなるんだし。

 それにお前、彼女はいらないとか男子に公言してただろ。

 円井可愛いから、クラスの男子に狙われるかもよ?」


「え?」

 片山はガバッと頭を上げる。


「奪われないように、ちゃんと円井のこと見てろってこと」

「…分かった」


「はぁ〜、今日寄っといてマジ良かったわ…。

 でも、成斗、本当に良かったな…円井と気持ち通じ合えて」

 佐藤は安心した顔で言う。


「ああ、啓太のおかげだ」


 片山の顔が緩むのを見て、佐藤は思う。


(こいつ、全然笑わなかったのに…

 手だけじゃなくて、頭まで普通に触れるようになったのか…

 円井のお陰だな…


 そういえば、円井が閉じ込められた時、成斗のやつ…どうやって保健室に連れて行ったんだっけ?

 まあ、随分進歩したんだな…


 あ、キスはしたのかな?

 その先の✕✕✕の話は…またこの次でいいかな?

 …、相当時間かかるだろうけどな…、)


「じゃ、俺帰るわ。

 大智さんに宜しく伝えといてくれ」

「ああ、啓太、ありがとう」

「おう、また明日な」

「ああ」


 玄関を出てエレベーターを待つ間、佐藤はスマホに文字を打ち、梶にチャットを飛ばす。


佐藤

「明日も午前でおわりだから

 帰りにどっか寄らない?

 二人で」


「りょーかーい」


(ちゃんとフォローしとかねーとな)


 エレベーターが来て、昇降扉が開く。

 佐藤は、ふと思い出す。


「あ、そういえば円井のやつ、…」


(1月に車で迎えに来てた男とは、結局何でもなかったのか?

 相手の男、恋人みたいに円井の肩に手を掛けて引き寄せてた…


 …成斗と円井は両想いになったんだから、何でもないんだよな…)


「成斗には、やっぱり言わない方がいいよな、」


 佐藤はエレベーターに乗り込んだ。


 佐藤が帰った後、片山は考える。


(両想いになれるなんて思ってなかったから、

 友達としての関係も、無くなるかもしれないと思ってたから、

 音波を好きでいる事を、許してほしいと言った…)


「音波に…何て言おうか…」



ーー同日、夜


ピコン、

 音波のスマホにプライベートメッセージが届く。


(ん、誰だろう?)

 送ってきたのは梶だった。


「音波 ちょっと通話できる?」


 梶が音波に対してチャットの通話機能を使うのは珍しい。

 音波は直ぐに返信する。


円井

「うん、いいよ」


プップップップッ…、通話機能独自のコールメロディが鳴る。


[もしもし、音波?

 ゴメンね、文字じゃどうしても伝えにくいかなって思って通話にした]


「うん、いいよ。

 実花、どうしたの?」


[うん…去年の春にさ、ファミレスで話してたじゃん、ダブルデートしてるみたいって]


 ああ、そのことか…と音波は思った。


[本当に現実になって、嬉しいしおめでたいことなんだけど、今日クラスのコに聞かれたの]


「何を?」


[片山がフリーかって。

 ほら、アタシらが音波たちのこと知ったのって、学校出た後でしょ?

 アタシ、その時まだ知らなかったから、片山はフリーだって言っちゃった…。

 ごめん、音波]


「ええっと…、」


[1年のときは、4人で結構居たから、音波とアタシが防波堤? 壁? みたいになってて、片山が女子と話すことって殆んど無かったと思うんだ。


 それが、クラスがバラバラになったから、みんな話しかけられるって。

 片山のクラスも、片山を狙ってる子いると思うんだよね。

 まあ、片山が告白とかされた時に、片山が訂正すればいっか]


「うん…」


 梶との通話が終わった後、音波はベッドの上で枕を抱えて考える。


 確かに梶の言うとおりだ…

 片山はモテるし、引っ切り無しに告白されている、


 他の女子達とも話をするだろう

 接触さえしなければ、片山は普通に女子と話せる


 今まで4人で居られたほうが、運が良かったのだ、

 あのとき、田中の声に驚かなければ…接点は無かった。

 ずっと何も無いまま、片山と話すことも無かったかもしれない…


「改めて、私から言ったほうがいいのかな…付き合ってくださいって」


(言葉を口にだすって、勇気が要るよね…)


 音波は悶々とした気持ちを何処かに吐き出したい気分になった。

 スマホのアプリを開き、文字を打つ。


『D:コメントを入力してください』

→「……………」


「恋ってむずかしい」

「恋って難しい…」

(…、?)


ポチッ、

 音波は送信ボタンを押した。


【NamiがSeiにDメッセージを送信しました】

Nami☆DOSE.ファン

「恋って難しい…」


「えっ? ダイレクトメッセージ?

 何で? いつ仕様変わったの?」

 音波は慌てて画面を凝視する。


(Seiさんに直接、個人メッセージ送っちゃった…)

 音波は血の気が引くのを感じた。


「もう…何やってるんだろう私」


 10分経過した。

 既読は付かない。

 音波は枕に顔を押し付けた。




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