第64話 1-15-4 近くで感じて…

1-15-4 近くで感じて… 耳より近く感じたい


ーー

 ソファに並んで座る、音波と片山。

 片山の左腕と音波の右腕を交差して繋いだ手。

 …だが、いつまでも繋いでいるわけにはいかない。


「…、なんとか無事に話せたって、兄さんに伝えないと」


 そう言って、片山は繋いだ手を離す。

 ソファから立ち上がり、兄の部屋へと歩いていく。


トントン

「兄さん、終わった」


 片山が引き戸越しに伝えると、5センチ程すき間がいていた引き戸が開き、兄の大智が出てきた。


「大丈夫だったな、」

「うん、なんとか耐えれた」

「成斗、頑張ったな」

「…うん」


 少しのやり取りをしたあと、大智はテーブルを挟んで音波の前に、片山は再び音波の隣に座る。


 リビングのすぐ隣の部屋に大智が居たとは思いもしなかった音波は、告白した事を聞かれていたかと思うと、下を向いて赤面した顔を隠すしかなかった。


「オトハちゃん、成斗の事を知ろうとしてくれて有り難う」

 大智に声をかけられ、音波は赤面した顔を上げる。


 前回と違い、大智の目は優しい。


 音波は姿勢を正して答える。

「はい、これからも、もっともっと知っていきたいと思ってます」


「そう、良かったな、成斗」

 コクリと片山は頷く。


「オトハちゃん、これからはいつ来てもいいから。

 弟を宜しく」

「はい!」


「…音波、疲れただろ? 明るいうちに送ってく」

 片山は立ち上がる。


「うん」

 音波も立つ。


「お邪魔しました」


 片山は先に玄関を出て、エレベーターが上がってくるのを待つ。


 音波も玄関を出ようとした時、後ろから大智が言う。


「この間君を送るときに話したよね、今回は当たりだったって」

「え?」

 音波は振り返り、大智を見る。


「君が見た成斗の症状はアレだけじゃない。

 時に出方が変わるから、その時は直ぐに俺か啓ちゃん_啓太に連絡して、

いいね」


 そう言い、電話番号が書かれた紙を渡す。


 兄、大智の真面目な顔に、音波も応える。

「はい、分かりました」


 紙を受け取りバッグの内ポケットに押し込む。


 エレベーター前から、片山が音波に呼びかける。

「音波、エレベーター来た」

「うん」

 音波はパタパタと片山のもとへ走っていく。


 エレベーターに乗る。


 片山が音波の前に手を出す。


「どうしたの?」

「音波の手、乗せて」

「手?」

「うん、…繋ぎたい//」


 少し照れたような顔で言われ、音波の胸はキュンとする。

「うん///」

 


 エレベーターを降り、エントランスを出て駅に向かう。


 ゆっくり歩く。


 片山は、前を向いた状態で音波に話す。


「俺…誰かを好きにはならないって、ずっと思ってたから、

 啓太と梶を近くで見てても、あまりピンとこなかった。

 …でも今ならわかる」


 繋いだ手を上に上げる。


「音波の近くにいる事ができる、

 音波を近く感じていられる、それが嬉しい」


「うん、私も嬉しいよ」

「…うん」


 手を下げ、片山が思い出したように言う。

「あー、そういえば」

「なあに?」


「宇野と話してたときに、音波の顔が真っ赤になったの、いつ話してくれるの?

 まだ?」


 音波は顔を赤らめる。


「それ、聞きたい?」

「…言いたくないなら、いい」

「えっと…、」

 音波は黙る。


 小さい声で言う。

「アイツを傷つける奴は、許さねえから…///」


「え? 何?」

 片山は音波の方を向く。


「宇野先輩が片山くんに言われたって、話してくれたの。

 アイツを傷つける奴は、許さねえから…って」


「……あっ///」

 片山の顔が赤くなる。


「…宇野のやつ、余計なことを…」

 そう言って、音波と反対の方を向く。


「…私、嬉しかった」

「…、うん」



 駅に着く。


 階段前まで来たとき、片山が上着のポケットからスマホを出す。


「音波、電話番号教えて」

「え?」

「チャットの電話だと、連絡取れない時あるから」

「うん、分かった」


 二人は電話番号を交換した。


「じゃあ、行くね」

「ああ」

 音波は階段を上っていく。


「音波」

 音波は振り向く。

「なに?」


「家に着いたらなんか打って」

「…うん! 分かった」


 片山は、右手をヒラヒラさせた。


ーー

円井

「家に着いたよ」


片山……入力中


片山

「(・∀・)」


 あと5日で高校2年生、

 そして…新学期が始まる……。


Season1、Fin


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