第62話 1-15-2 「音波に話すよ」

1-15-2 「音波に話すよ」 耳より近く感じたい


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4月1日 春休み後半


 音波は自分の部屋で、先日のDOSE.(ドース)のライブで撮った写真を整理している。

 スマホに貯まった写真をパソコンに移しているのだ。

 でないと、スマホの容量がすぐにいっぱいになるからである。


 整理した中から、一番良く撮れている1枚を選び、パソコンで音楽専用アカウントにアップロードする。


Nami☆DOSE.ファン

「ライブハウスZONE池谷

 Songs/BORDER by DOSE.

 __画像__ 」


ピコン、ピコン…

ハートがどんどん増えていく。


 赤いタオルで染まった画像を眺め、音波は片山のことを考える。


「本当にビックリしたな、DOSE.(ドース)の人たちが、こんなに私の近くにいたなんて。

 片山くん、修さん、そして大智さん…」


 軽音祭の時に、ワンバスのドラムセットに大量にセッティングされていたシンバルが無ければ、ナルが片山だと気づけていたのだろうか?


 ナルが立ち上がった時に、双眼鏡で見ていたら?


(春休み中に、もう一回くらい会いたいな…)


ピコン

 音波のスマホがメッセージ着信音を鳴らした。


片山

「音波、もう寝てる?」


(片山くん?

 どうしたんだろう…

 片山くんの方からメッセージを送ってくるなんて)


円井

「まだ起きてるよ

 どうしたの?」


片山……入力中

 ・

 ・

 ・

片山

「前に言ってた

 いつか話すってやつ

 覚悟決めたから

 音波に話すよ

 明日以降で時間つくって」


(片山くん…話してくれるんだ)


円井

「うん、分かった

 明日聞きたい

 場所はどこ?」


片山……入力中


片山

「出来れば俺の家

 音波を守るため

 何かあったとき

 兄が音波を助けてくれる」


円井……入力中


(…守るため? 助ける?

 何でだろう…でも、

 私が知りたいと言ったから…)


 音波の心は決まった。


円井

「分かった

 13時頃駅に着くように家を出るね

 それでいいかな?

 片山くんの都合は大丈夫?」



片山

「大丈夫

 駅まで迎えに行く」

「音波

 ありがとう」

「オヤスミ」


円井

「おやすみなさい」



ー片山のマンションー


「…明日、話す。

 13時に、音波を駅まで迎えに行く」


 リビングのソファに座った片山が言う。


 テーブルを挟んで座っていた兄、大智は立ち上がり、弟、成斗の隣に座る。

「明日だな、分かった」


 片山は兄に話す。

「…実は、高校になって症状が出たのは、音波の時で…2度目なんだ。


 学園祭の日に、3年の女子にいきなり抱きつかれて…、

 それで、記憶と感覚が蘇ってしまって…


 啓太が助けてくれて、正気に戻った」


 大智は弟に訊く。

「成斗、何で黙ってたんだ?

 その時は、出方はひどかったのか?

 相手の女は?」


「啓太の首に…、啓太が圧されそうになったって言ってた

 女子とは、音波のおかげで…和解した」

「…、」


「…久し振りだったから、もう出ないと思って、言わなかった。

 体調が悪かったとはいえ、まさか音波と一緒にいる時に、また症状が出るなんて…、考えもしなかった。

 兄さん、ごめん」

 片山は兄に頭を下げる。

「成斗、」



「…あの日の事…、正直うまく話せるか分からない。

 俺自身…自分がどうなるか分からない」


 片山は、苦しそうな顔で兄の大智を見る。


「…もし、話してる途中で、

 症状が出てしまったら、

 その時は兄さん、お願い…

 音波を俺から守ってほしい…」


 体を震わせながら大智に懇願する。


「大丈夫だ、心配するな」

「…いっぱい、迷惑かけてごめん」


「言うな! お前は悪くない

 お前が悪いんじゃないんだから!」


 大智は弟、成斗の背中を擦った。

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