第61話 1-15-1 ズレて…繋がる DOSE.ライブ後
1-15-1 ズレて…繋がる DOSE.ライブ後 耳より近く感じたい
ーライブ終了後、
フードを被ったままの片山は、ライブハウスの外へ流れる客の方に背中を向ける。
片山は3人に対して言う。
「下が出きったあとに俺たち出るから、悪いけど少し待って」
「了解」
佐藤が返事をする。
音波もステージに背中を向け、先程撮った写真をチェックする。
片山が音波に声をかける。
「音波、写真いっぱい撮った?」
「…うん、撮った」
「そう、軽音祭の時より会場小さいけど、その分ステージとの距離が近いから、よく見えたんじゃない?」
「え?」
「中学の時からDOSE.のファンだって言ってたから」
「うん、見えた…」
好きなバンドのライブなのに、思ったよりテンションが低い音波を見て、片山は心配する。
「立ちっぱなしで疲れた? 人に酔った?」
音波は、言う。
「…お兄さんのバンドがDOSE.だったんだ」
音波の言葉に、片山は驚く。
「…え? …気付いてなかったの?」
「うん…、私がずっと知ってるドースのダイチさんは髪の毛長いけど、片山くんのお兄さんはそんなに長くなかったから」
「あー、アレ、ウィッグとエクステ付けてるから」
「そっか…」
音波は悲しそうに言う。
「サポートメンバーって、ナルって、片山くんのことだったんだね。
私、…今日まで気づかなかった」
これを聞いて、片山が更に驚く。
「は? …気づいてなかったの?
知ってると…思ってた…。
…啓太からも聞いてると思ってた」
「聞いてないよ。
この間だって、お兄さんの手伝いで忙しいってだけで。
軽音祭だって、行くけど会うのは無理って…。
ドースがお兄さんのバンドだって言ってなかったから」
片山は困惑する。
「いや…待って?
軽音祭のとき、音波…2階から手を振ってくれただろ?
…もしかして、あの時点でも気付いてなかった?」
音波は驚く。
「えええっ? あれは、佐藤くんが手を振ってみろって言ったから…振った」
「…」
「…」
二人の間に暫く沈黙が流れる。
「プッ、クスクスっ、私たちお互いに話がかみ合ってるようで、かみ合ってなかったんだね」
はぁーっ、と溜め息をつき、片山は言う。
「…思い込みって、怖いな。
俺が言葉足らずだったのもある。
…ごめん、音波」
音波は片山を見上げて言う。
「ふふっ、もういいよ。
ズレてた話が繋がって、誤解が解けたから」
「あー、うん」
客が殆ど居なくなったところで、片山たちも動き出す。
佐藤は片山に訊く。
「成斗、このあとお前どうすんの?」
「どうって?」
「いや、一緒に帰れんのかなって」
「あー、終わった後は何も言われてないから」
「あっそ、じゃ皆んなで飯食って帰ろーぜ」
「うん、アタシお腹ペコペコ」
音波が言う。
「4人でご飯食べるの、久しぶりだね」
音波の言葉を聞いて、片山と佐藤の顔が、僅かに曇る。
(成斗、大智さんに頭上がらないから…)
(兄さんの頼みは断らないからな…)
「…そうだな」
その時、後ろから誰かが声を掛けた。
「啓ちゃん、久しぶり!」
佐藤は振り返る。
「修さん!」
佐藤の顔が喜びの表情に変わる。
「修さん、また速くなったんじゃないですか?」
「チカラ抜けば誰でも弾けるぜ、あのくらい。
今度、啓ちゃんもナルと一緒に遊びに来れば?
大学の部室に、俺の
「近いうち行きます」
「ナルとばかりじゃなくて、エイタロウと合わせるのも、面白いぞ」
と言ったところで、修が音波に気付いた。
「あれー、オトハちゃん久しぶり。
夏休み以来?」
音波は名前を呼ばれて驚く。
(この派手な格好の人はドースのギターだ。
けど、面識なんて無い筈なのに)
「あれ? 覚えてない? オサムです。
修、カラオケのバイト先の」
と言って、垂らした長髪を首の後ろで掴んだ。
「ええ? 修さん、ドースの人だったんですか?」
音波は、ビックリした。
「そうそう、俺、ドースの人なの。
オトハちゃんゴメンな、ナルとの時間を取っちゃって、寂しかったよね?
あと、バイトの後送ってくとき…」
「修さん!もういいから!」
片山が慌てて修の話を遮る。
「ナル、彼女に挨拶してるだけ…」
「だから彼女じゃないから!///」
「お前がちゃんと彼女を守ってや…」
「だからっ、もういいから!///」
修の肩を掴み、音波たちから離れようとする片山の耳が赤くなっているが、フードを被っているので音波たちには気付かれない。
「ほらっ、早く片付けに行って下さい!」
片山たちはそのまま楽屋側の方に移動していく。
佐藤が笑う。
「あははw 修さん相変わらずだな。
素で成斗、イジってる」
梶が佐藤に聞く。
「ドースの人って、みんなあんな感じなの?」
「いや、ベースの慎司さんが一番マトモかな。
修さんが一番飛び抜けてるかな」
「ふーん」
佐藤たちの会話中、音波は別の事を考えていた。
(修さんは、私が片山くんの彼女だって勘違いしてるんだ。
片山くん、必死に否定してた…)
(帰り送ってくれたり、
助けに来てくれたり、
手を暖めてくれたり、
片山くん、私のことどう思ってるんだろう…
やっぱり、お兄さんが言うように…)
<友達のままの方が弟も喜ぶから>
音波は下を向き、唇を噛み締めた。
「どうしたの? 音波?」
「円井? 成斗、すぐ戻ってくるよ。
…円井?」
「なんでもない。お腹すいたね」
音波は笑顔を取り繕った。
ようやく片山が戻ってくる。
「ごめん、待たせた」
「じゃ、行こうぜ」
片山と佐藤が前を歩き、その後ろを音波と梶が歩く。
ご飯を食べるといっても、高校生だ。
場所はファミレスに決まった。
音波たちは腹が満たされるものを注文するが、片山は軽めのサンドイッチとサラダを注文する。
量の少なさに、音波は心配する。
「片山くん、それだけで足りるの?」
「あー、平気」
「せ、成斗は後で食べるんだよ、そう!兄貴と、な!」
佐藤が妙なフォローをする。
「佐藤、なんか変。
片山ってベジタリアンなんだね」
片山は梶を見る。
「…何で?」
「だって、この前4人でファミレス行った時もサラダ頼んでたじゃん」
梶は、よく観ている。
片山は、フォークでサラダを刺しながら言う。
「あー、サラダは野菜切ってるだけだから」
音波は、片山のサラダを見ながら訊く。
「片山くん、偏食?」
「…、そうかも」
片山はサラダに入っているコーンを、綺麗に端に避けていた。
ー
駅で梶、佐藤と別れ、音波が乗る電車を待つ。
音波は片山と話す。
「今日は驚くことがいっぱいで楽しかった」
「…ああ」
「私、ドースのメンバーに会ってたんだね」
「…修さん、グイグイくるから大変」
「うん、分かる気がする。でもね、」
音波は片山の方を向く。
「私、片山くんのこと、新しく知ることが出来たのが、一番嬉しいかな」
そう言って、ニッコリと笑う。
「!」
片山は音波の頭に手を乗せ、下を向かせる。
「いつも思うけど、お前のソレ、反則だから///」
「何が反則?」
「あー、なんでもない。
電車、来た」
音波は電車に乗り込む。
「…家に着いたら
「うん、分かった」
片山は右手をヒラヒラとさせる。
「じゃ」
「うん」
ドアが閉まり、電車がゆっくりと走り出す。
それを見送り、片山は駅を出てバイクを置いている有料駐輪場に向かった。
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