第47話 1-11-2 色んな形の恋
1-11-2 色んな形の恋 耳より近く感じたい
ーー放課後
片山と佐藤は軽音楽部の部室に向かう。
約1ヶ月ぶりに片山は顔を出す。
兄の大学等で連日ドラムを叩いてはいたが、やはり佐藤と合わせるほうがいい。
3年生は学園祭が終わると引退し、受験一本になる。
息抜きがてら、たまに顔を出す先輩もいる。
部室のドアを開けると、引退した3年の元部長が遊びにきていた。
片山が最後に会ったのは、音波の居場所を聞くために、宇野のいる3年2組の教室に行った時だ。
「お、片山、佐藤、久しぶり」
元部長が声をかける。
「あれ、息抜きですか?」
佐藤が尋ねる。
「まあ、そんなとこ」
片山は、少し気不味(きまず)い。
それを察したかどうかは不明だが、元部長が片山に言う。
「片山、ちょっと場所変えて話そうや」
片山は軽く頷き、後について行く。
部室を出て先の、裏手にある古いベンチまで歩く。
「まあ座れや」
元部長に言われ、片山も座る。
「…片山、悪かったな」
元部長の一言目が謝罪なのに驚いた。
「え…?」
「俺がクラスまでお前を呼んでなかったら、宇野がお前と会わないまま何の接点も無く、事が起きずに済んでたかもしれん。
悪かった」
「…」
片山は、下を向く。
学園祭の日の事を思い出し、服で隠れた部分に鳥肌が立つ。
「宇野のこと、許してやってくれとは言わない。
ただ卒業前に、当人に謝るために会わせるのは了承してくれないか」
「…、」
「片山があんなに感情丸出しで想うくらいだから、宇野とまた会わせるのは嫌かもって思って、お前に確認取りに来た」
片山は下を向いたまま、元部長に質問する。
「…何で部長が、動くんですか?」
「うーん、それは惚れた弱みってやつよ」
「は?」
驚いた片山は、顔を上げて元部長を見る。
「俺がやめとけって言ったヤツばっか好きになって、フラレて、そのたびに俺に泣きついてきて…。
こっちは3年間同じクラスで、ずーっと好きなのによw」
「…」
「お前にどんなフラれ方したか知らねーけど、流石に今回はやり過ぎで反省してる。
謝って立ち直れるなら、そうさせてやりたい。
俺はとことん宇野に付き合う」
「…」
「下手くそな恋しか出来ない奴もいれば、片恋上等ってヤツもいるってこと。
片山、お前は成就させろよ」
「…部長、」
元部長は片山の肩をポンと叩く。
「テスト明けでいいから、彼女さんに聞いといてくれ。
じゃあ行くわ。
佐藤にも宜しく言っといて」
言い終わると、元部長は部室に寄らず行ってしまった。
「……」
片山はベンチに座ったまま、上着のポケットに手を突っ込み空を見る。
「色んな形の恋…か」
(テスト前に音波に伝えるのはやめよう…)
片山はポケットから取り出したスマホにメモをし、アラームをかけた。
部室に戻ると、佐藤が奥の部屋で2年の先輩と演奏していた。
片山も奥の部屋に入る。
2年の部長に声を掛けられる。
「おお片山、やっと来たか。
お前1ヶ月も来なかったから、どうしてるのかと思ってたよ。
腕、鈍(なま)ってないか?」
「あー、落ちてはいないかな」
と、片山は答えた。
(…むしろ、鍛えられたな)
片山は久し振りに、佐藤と一緒に演奏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます