第43話 1-10-2 (声が聞きたい…)
1-10-2 「声が聞きたい…」 耳より近く感じたい
ーー
音波たちが集まって勉強をしている時、片山は忙しい日々を送っていた。
平日昼間は学校、昼休みに仮眠をとり、学校が終わったら直ぐに下校。
日替わりで掃除や洗濯等家の事をし、アルバイトに行く。
アルバイトが終わると、そのまま兄の通う大学や貸しスタジオへ向かい、ドラムを叩く。
日付が変わるまでドラムを叩く。
その日集まれないメンバーのパートも、時々補う。
家に帰り着くのは、大体夜中の2時近く。
次の日が休み等で遅くなるときは、3時を過ぎることもある。
それからシャワーを浴び、出来る時は僅かでも勉強をするのだ。
そして、目覚まし時計を何個もセットし、泥のように眠る。
いくら16歳の健康な男子といっても、疲労と過度の睡眠不足は徐々に体に効いてくる。
ーー日曜、午後
兄の大学の部室にある、四人掛けのソファー。
そこに、片山はドサッと座りもたれかかる。
汗でグッショリ濡れたシャツをパタパタさせ、ぐったりしながら片山が言う。
「オサムさん、俺もう限界。
なんとかして」
「ごめんなーナル、あと1曲だから協力して!」
ストレートの長髪をゴムで後ろに束ねたオサムが手を合わせる。
「兄貴はどうして3つにしたの…、俺、今回ヘルプですよね」
「今週までドラム忙しくてあまり来れないからさ、来週になったら来るから。
それまであと少し! 頑張ってくれよ、頼むっ!」
「あー、」
片山は額に手をやりガックリとした。
休憩中に片山は、ドラムスティックを指でクルクルと回転させる。
エレキギターのネックを布で拭きながら、オサムがふと思い出したように言う。
「おい、ナル、そういえばさ、あれから彼女とどう?
祭りに来てたよな。
ほら、2階で啓太と手を振ってただろ? 進展あった?
確かオトハちゃんだっけ?」
いきなり音波の名前が出て、焦った片山は動揺してスティックを…落とす。
カタン、カラカラ…
「かっ、彼女じゃないから!//」
言いながら、スティックを拾う。
「えー、あの時折角教えてあげたのに。
彼女が帰るの」
「だからっ、彼女じゃないって!///」
片山の耳が、赤くなる。
ー
『ナル』…オサムがそう呼んだのは、片山のことである。
片山成斗、成の字を訓読みして「ナル」である。
最初にこう呼び始めたのは、片山の兄で、
『為せば成る』、字が同じという安易な理由で、バンドのサポートメンバーとしては「ナル」の呼称を使っている。
去年の大学合同軽音祭で、片山が2曲演奏したのは、片山が作曲に深く関わった曲が選ばれたからだ。
もし選ばれていなかったら、片山はドラムを叩いていなかった。
音波に手を振り返していなかったかもしれないし、音波を駅まで送るときも、会話は弾んでいなかったかもしれない。
そしてこのオサム。
音波がバイト初日に、凄い速さでスマホに文字を打ちこみながら、音波と話し込んでんでいた修がこの人である。
オサム(修)は、DOSE.(ドース)のバンドメンバーでギターを担当している。
初めて音波と話した時に、高校が美笠学園第一高校と聞き、直ぐ片山にメッセージを送ったのである。
修
「今日から新しく入ったバイト
ナルと同じ高校だって
マルイオトハってコ
知ってる?
もう帰っちゃうけど
ナル21時上がりだよな
危ないから送ってやれば?」
オサムが送ったこのメッセージを片山がチェックしたのは、既に音波と会った後だったが。
暫しの休憩を終え、片山はもうひと踏ん張りと、ドラムスティックを握り、ソファーから立ち上がる。
少し遅れて残りのメンバー、兄のダイチとベースのシンジも合流し、
この日やっと、各パート全部揃っての練習が始まる。
音楽は当然大好きだし、曲を作り上げていく過程も楽しい。
だが、片山は自分が枯渇しているのを感じている。
その理由も、もう分かっている。
(年明けから、まともに話してないな。
勉強、頑張ってるかな…
声が聞きたい…音波 )
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