第34話 1-8-3 「やっと笑った」

1-8-3 「やっと笑った」 耳より近く感じたい



__久しぶりに、あの夢を見た__


__でも、ちょっと違う気がする__


__暗闇に光が射して現れたのは……


(……片山くん?)



 瞼まぶたを開ける。


(誰か私の手を握ってる)



 ボーッとした意識が戻ってくる。


「片山くん?」


「音波!良かった、」


 片山の顔が安堵に満ち、手を離す。



「円井、大丈夫か?」


「音波、心配したよ」


 梶と佐藤も居る。


「えっと、私何で寝てるの?」


「…気を失ったんだよ」



(ああ、思い出した、私閉じ込められたんだっけ…)



「窓もない中、真っ暗で怖かっただろ?

 ごめん、音波、俺のせいで」



 普段は感情があまり顔に出ない片山が、とても辛そうな表情になっている。



「うん、もう平気だよ。落ち着いてるから」


 そう言って、音波は起き上がる。



(あれ、ボタンが外れてる、それにネクタイ…)



 音波が首元を触っているのに気づき、片山が説明をする。


「ネクタイとボタンは、楽になるように保健の先生が外した」



「それにしても、自分が相手にされないからって、音波にこんなことするなんて最低!」


 梶が無茶苦茶怒っている。


「あそこはみんな行かないからな」


 佐藤も呆れ顔で言う。


「血相変えて出ていった成斗から電話もらって、状況聞いたときはビックリしたもんよ」



 改めて片山を見ると、全身が濡れた後だろうか?


 髪の毛は湿って、いつもハネている後ろの髪の毛は、いつもより寝ている。


 上着のブレザーは着ていない。


 雨で濡れたからだろうか?


 白いシャツの袖は薄く汚れている。


 スボンの裾に付着した泥が乾きかけている。



「片山くん、」


「…何?」


「もしかして、急いで来てくれたの?」


「当たり前だろ」


 至極真面目な顔で言われたので、音波はドキリとした。



「ああそうだ、担任に知らせないと。オレ職員室行ってくるわ」


 佐藤が保健室を出ていく。


「担任がね、音波の親に連絡入れたから。


 音波のバッグはソコに持ってきてるから、ここで待ってたらいいよ、暖かいし」


「うん、ありがとう実花」



 佐藤が担任と一緒に戻ってくる。


「円井、災難だったな。お父さんが来るそうだから、それまで暖かくしてろ」


「先生、分かりました」



ピロロン♪


 音波のバッグから音が鳴った。


「何だろ?」


 スマホを取り出しチェックする。


「あ、お父さんからだ」



お父さん

「音波へ


 あと30分くらいで学校に着く


 そのまま保健室にいるように


 お友達に挨拶したいので


 出来れば残るように伝えてくれ」



「30分で着くって。

 あと、お父さんが挨拶したいって言ってるんだけど、時間大丈夫?」


 音波は、みんなの顔を見る。



「…お前の親にきちんと謝りたいから残る」


「でも片山くん、今日バイトあるんじゃないの?」


「休むって連絡した。

 俺のことはいいから」


 片山はそう言うと、音波の頭をクシャクシャと撫でた。



「アタシも残る。音波のお父さん見てみたい」


「じゃ、俺も残る。梶と帰りたいし」


「は? 何いってんの? 帰るけどっ///」


アハハハ…



「フッ…やっと笑った」


「え?」


「あー、別に///」


 ふいっと、顔を逸そらした片山だが、


 自分を見る片山の笑顔を、音波は見逃さなかった。



ーー30分後、音波の父親が到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る