第33話 1-8-2 「夢の中の…」
1-8-2 「夢の中の…」 耳より近く感じたい
ーー
(どこだ? 何処へ連れて行った?
ただ闇雲に捜しても時間がかかるだけだ。
早く見つけてやらないと…音波!)
階段を2階から4階まで一気に駆け上がる。
絶対に居場所を吐かせる!
ガラッ、バーン!!
3年2組の教室のドアが壊れそうなくらいに勢いよく開く。
授業が始まっているにもかかわらず、片山はズカズカと入っていく。
教室内が、ザワっとどよめく。
「おい、何だお前、授業中だぞ」
教科の先生が言うが、片山の耳には入らない。
ただ一人の方に向かって足を進めていく。
宇野の側まで来ると、腕を掴み引っ張って立たせ、教室の外へ連れ出していく。
「痛い!」
片山は宇野の言葉を無視して階段近くまで移動する。
バンッ!
片山の手が壁を思い切り叩き、必死の形相で大声をだす。
「おい、アイツをどこへ連れてった?
早く答えろ!!」
殺気に満ちた片山の瞳が、宇野を睨みつける。
「ひ、東校舎裏の廃倉庫…」
恐怖で宇野の声が裏返る。
壁から手を離し、宇野を見る片山の目は冷めきっている。
声も、さっきとは真逆で感情が無い。
「アイツを傷つける奴は、許さねえから」
氷のような冷たい目で言うと、片山は宇野の腕を掴んだままだった手を離し、直ぐに階段に向かって走って行く。
東校舎裏、早く行かないと!
階段を、今度は1階まで駆け下り、走る。
ハァハァ…
外は雪混じりの雨に変わっている。
バシャッバシャッ!
泥水が跳ねる。
走りながら片山は考える。
(なぜ俺はあいつのことになると、なりふり構わず動いてしまうんだろう)
…最初は笑顔が気になった
…あのキラキラした瞳
…何故か懐かしさを感じる
(音波……音波!)
ー
廃倉庫の扉を叩く。
ドンドン!
「音波、居るか? 無事か? ハァ、ハァ」
「片山くん?」
「音波!
今開けるから…、」
ギギギ…扉が開く。
「音波!」
音波の姿を確認し駆け寄る。
「音波」
ブルブルと震えながらしゃがみ込んでいる音波の肩を優しく掴み、じっと見つめる。
「大丈夫?」
「うん、」
「よかった」
ホッとして音波の頭を撫でながら、優しく言う。
「もう大丈夫だから」
「片山くん…」
「うん」
「怖かったよ…うっ…」
「うん、ごめん」
ガバッ、
雨に濡れた片山にしがみつき、音波は安堵の涙を流す。
音波にしがみつかれた勢いで後ろに尻もちをつく片山。
…悪寒は無い。
「ごめん、俺のせいで…ごめん」
音波をふんわりと優しく包み込むように抱きしめて、背中をさする。
そして、片山は何度も言う。
「もう大丈夫、大丈夫だから」
「もう大丈夫、だから泣かないで」
初めて片山の胸に抱きしめられた音波は、
キラキラと光る雨を片山の肩越しにぼーっと見ながらポツリと言った。
「…なんか、夢の中の"君"みたい…」
極度の緊張状態から解放され、音波は片山の腕の中でフッと気を失った。
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