第32話 1-8-1 (胸がザワつく…)

1-8-1 (胸がザワつく…) 耳より近く感じたい



 12月、テスト期間が終わり、あとは冬休みになるのを待つ。


 外は冷たい風が吹き、ガラス窓をカタカタと震わせる。


 そんな週末…、



「私、トイレ行って来るね」


 お昼ごはんを食べたあと、音波は席を立ち教室から出ていく。


(ブルッ、随分と寒くなったな…)



 トイレを済ませ、廊下を歩いていると、誰かに呼び止められた。


「ねえ、ちょっといい?」


 振り返るとそこには、3年生の女子がいた。


「はい、なんですか?」


 この人は知らないなと思いながら返事をする。



「片山くんのことで、話があるんだけど。

 あなたじゃないとダメなのよ」


「はあ…」


「ついてきてくれる?」


 何だろう?と思いつつ、音波は3年生について行く。



(片山くん、最近様子が変だから、そのことかも…)



 到着したのは、普段は殆ど来ない、東校舎裏だ。



「誰にも聞かれたくないから、先に入ってくれる?」


「分かりました」


 音波が、倉庫の中に入っていく。


 その時、後ろからドンッ!と突き飛ばされた。



「痛っ。何するんですか!」


 振り返ると…、倉庫の扉が閉まっていく。


「え、待って!」


 音波は急いで立ち上がり、入口の方に走る。



「アンタがいるから、話もまともに聞いてくれない、出来ないのよ!」


 そう言って、3年生はバターン!と扉を閉めてしまった。



「待って!出して!どうしてこんなことするの? 開けてっ!」



(嫌だ、真っ暗で何も見えない…怖い)



「誰か!」


ドンドン!


 コンクリートの壁が分厚いのか?


 叩いても外には聞こえないのだろうか?



「寒い、怖い、怖い…」


 その場にしゃがみ込み、目をつむり両耳を手で覆うーー



ーー

 昼休みがもうすぐ終わる頃



 クラスの男子が、廊下から片山を呼ぶ。


「おい片山、ちょっと来て、外のあの人」


 呼ばれた片山は、廊下に出て、男子が指を指している方角を窓から見る。



「あの人って3年だろ?たしか2組だっけか」


「あー、知ってる。宇野だっけ」



 片山は学園祭で宇野に接触され、それにより忌まわしい記憶を揺り起こされたのである。


 軽音楽部の部長が2組で、たまに呼ばれて教室まで行った時に面識がある程度だったが、学園祭後は顔を合わせていない。



「あの人と円井って知り合い?」


「いや、面識無いはず」


「そうか、なら違うかな」


 片山は何のことかと思いつつ教室に戻る。



 授業開始の本鈴が鳴る。


 教科の先生が入ってきたが、音波はまだ戻らない。



(ーなんか胸がザワつく…違う? 何が違うんだ?)



 片山は音波のスマホにチャット電話が繋がるか、試しにかけてみる。


 着信音は、音波のバッグから聞こえてきた。



(あいつ、スマホ持ってってないのか!)



「誰だ?スマホの電源落としてないのは。授業中は切りなさい」



「…、」


ガタン!

 片山は席を立ち、先程話していた男子の所に行く。


「さっきの違うって、何?」


 男子が驚きながら説明する。


「昼休みに3年と一緒に歩いてったの円井に見えただけだよ」



 先生が注意する。


「何だ片山、席につけ」



「…、あ」


(まさか、音波!)


「くっ…!」


 片山は急いで教室を飛び出す。



 後ろから佐藤が叫ぶ声がした。


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