第31話 1-7-6 距離をおく「…これでいい」

1-7-6 距離をおく「…これでいい」 耳より近く感じたい


ーー

 学期末テストが終わった翌日の放課後、片山は佐藤以外の男子達と話している。


 どうやら、バイクの話をしているようだ。



「ねえ佐藤、最近片山付き合い悪くない?」


 梶に聞かれるが、佐藤は話をはぐらかす。



「あー、いや、あいつもやることあるんだよ。

 そういえばお前が行きたいって言ってた店、帰りに寄る?」


「え、いいの?行きたい」



 梶と佐藤の会話を遠くに聞きながら、音波は片山を見る。


「…」



 梶が佐藤の腕を突く。


 佐藤は頷く。


「音波も行こうよ、珍しい物仕入れてるらしいから、楽しそうだよ」


「そうそう、円井も行こうぜ」


 佐藤が先に教室を出ていく。



「え? 何?」


「いいから行こ」


 梶は音波のバッグを持って音波を引っ張って行く。


「えええ…」



 音波が梶と一緒に教室を出ていくのを、片山はさり気なく確認する。



「片山、もうどれ買うか決めたのか?」


「…ああ、コレにしようと思ってる」



「どれどれ?」


「…125cc」


 そう言って、片山は男子にスマホの画面を見せる。



「125にするんだ」


「でもお前、普通二輪免許取ったよな。250ccにしないの?」



「あー、250は流石に高くて買えない。

 125くらいでいいかな。

 125なら、2人乗り出来るから」



「2人乗りか、いいな」


「誰を乗せるんだよ、片山」


「あー、兄貴とか啓太とか?」



「え、彼女乗せないのか?」


「…彼女とか、いない」



「は? 何で? 円井乗せないの?

 いつも一緒じゃん。

 円井が彼女じゃないの?」



 クラスメイトの質問に、片山は若干イラッとする。



「…そんなんじゃない、ただのクラスメイト」


「お前ら4人で仲良いから、てっきり2ペア出来てると思ってた」



(外から見てる奴らは、どうしてこうも勝手に…)



「…啓太の彼女、梶が"円井"と仲良いから、一緒にいるだけ」


 半ばキレ気味に言う。



「じゃあ、他に好きなヤツとかいるのかよ?

 片山だったら、直ぐに彼女出来そうなのに」



「…、彼女とか、いい、いらない」


「いや、片山、お前もったいないぞ? それは」



 片山はこれ以上、この話を続けたくないので、席を立つ。



「…、もういいよ女の話は。


 これからバイク見に行くから、もう行くわ」


 そう言って、片山は教室を出ていった。



(…音波との距離はとった…


 これでいい、このままでいい)



 …俺は、人を好きにはならない。


 …ずっと…一人でいい…。


 …今のままが、気が楽だ…



ーー

 駅に着き、バイクを見に行くため、いつもとは逆方向の電車に乗り込む。


 電車の窓からボーッと外を眺める。


 普通電車なので、発車しては停車を繰り返して、何駅か通り過ぎる。



(…あ、同じ制服…ここから通ってる奴がいるのか…)



 線路横の道を歩く後ろ姿の女子を、電車に乗った片山が追い抜く。



「!」

(…音波? 家、こっち方面だったのか?)



 遠く、小さくなっていく音波を見ながら、片山は思う。



(啓太と梶を挟んで結構話をしていたのに、


 俺は音波のことを、あまり知らないんだな…)



どこに住んでいるか


どこの中学だったか


好きなものは?


嫌いなものは?


家族は…兄弟はいるか、誕生日は…



「…フッ」


(何を考えているんだ…俺は)



「次は△△駅、△△△駅…」


 目的の駅に着き、片山は電車を降りた。


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