第19話 1-5-2 「手ぇ振って」
1-5-2 「手ぇ振って」 耳より近く感じたい
ーー本日は お越し頂き 有り難うございました。
お帰りの際は、係の指示に従って、順番に退場下さいますようお願い申し上げます。
繰り返します、お帰りの際はーー
1階席後方から順番に、ゆっくりと人が場外へ流れていく。
音波たちは2階からそれを見下ろしながら、順番を待っている。
梶が椅子に座り伸びをする。
「色んなバンドがあるんだね。
疲れたけど楽しかった」
音波は、双眼鏡をバッグにしまいながら言う。
「結構立ちっぱなしで疲れたね」
「音波が好きなバンド、凄かったね。演奏中赤だらけだったじゃん」
「ね。私もこんなに人気があるとは思わなかったな」
「そーいや佐藤から連絡ないね」
「うん」
「連絡入れてみよ…あ、来た」
佐藤
「終わった
先輩が帰っていいって言ったから 合流する
メシ食って帰んない?
かじたち今どこにいるの?」
梶が音波にスマホの画面を見せて言う。
「ご飯食べようってさ」
梶はスマホに文字を打つ。
梶
「お疲れ。
今ねーまだ2階にいるよ
どこかに移動したほうがいい?
動かないほうがいい?」
佐藤から秒で返事が届く。
佐藤
「2階にいく」
梶がまた音波にスマホを見せて言う。
「佐藤コッチに来るって言ってるから、座って待ってようよ」
音波は、ステージで片付けをしているスタッフを見ながら椅子に座る。
数人の人がドラムセットをバラしていく。
その数人をボンヤリ眺めながら、音波は梶に聞いた。
「ねえ実花、全然会ったこともないけど知ってる人と、もし連絡とって、今、会えるとしたらどうする?」
梶はキョトンとした顔で言う。
「ナニそれ?あ、もしかしてSNS絡み?
うーん、絶対ってことはないけど、相手が男なら会わないほうがいいとアタシは思う。
結構怖いじゃん、ネカマとか、色々」
「そうだよね、怖いよね」
音波は、言葉では梶の意見に同意したが、本当は会って、直接お礼を言いたいと思っているのだ。
だが、Seiと名乗る人物が男なのか女なのか、どんな顔なのかも分からないので、今回は探す…連絡をとるのを諦めた。
暫く待っていると、佐藤がやって来た。
音波は、佐藤に会うのは終業式の日ぶりだ。
「佐藤くん、久しぶりだよね。少し日焼けした?」
梶が茶化す。
「男前アップか!」
「アップした?」
佐藤は嬉しそうに笑った。
音波は佐藤に聞いてみる。
「片山くんは?一緒じゃないの?」
佐藤がシブい顔になる。
「ええっと、成斗は来ない」
梶が言う。
「えー、何で?来るって言ってたんだよね?音波」
音波は、頷く。
「前に聞いたときは、行くけど一緒には無理って言ってたよ」
佐藤が困った顔をして言う。
「いや、来てるんだけどさ、片付けとか打ち上げとか抜けれない用事っていうかなんていうか、とにかく今日はもう俺らとは合流しない」
「なーんだ、用事なら仕方ないね。
じゃあ、3人で行こう」
梶はそう言うと、椅子から立ち上がり歩きだす。
音波も続く。
佐藤が音波を見る。
「円井、ちょっとコッチ来て」
音波は、佐藤に近づく。
「何?」
「コッから手ぇ振ってみろよ、ドース!」
佐藤はステージに向かって大袈裟に手を振り叫ぶ。
すると、ステージに登っているスタッフの何人かと、ドラムセットをバラしていた数人が振り向く。
「ほら、円井も手ぇ振って」
音波は、言われるままに手を振る。
(ドースのメンバーがいるのかな?)
長髪を後ろで束ねた男の人が、ドラムセットの近くの一人に寄って、何やら話している。
隣の人と手を繋いで、手を振って返す。
「じゃ、行こうぜ」
そう言って、佐藤は梶のほうに歩いていく。
音波は、佐藤が気を使ってくれたのだろうと思った。
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