第17話 1-4-4 「一緒には無理」

1-4-4 「一緒には無理」 耳より近く感じたい



ーー7月最後の金曜日 バイト帰り


ピコン


片山

「店の前に着いた」



 音波は、バイト初日に片山とバッタリ会い、片山に若干強引に送られることになった。



 片山から届くメッセージは、いつも同じ文字。


 何だか、まだ緊張する。



 帰る間の会話は、相変わらず保たない。


 ポツポツと話しては、少しの沈黙。


 お互い、頑張って話題をひねり出しているように感じる。



 音波は、今まで片山に聞こうと思いながらも、なかなか切り出せなかった話題をふることにした。



「もう8月になるね」


「うん」


「片山くんはバイトじゃない日は何してるの?」


「…なんで?」


「いや、あの、ドラムの練習とかしてるのかなって」


「あー、うん、してる」


「そうなんだ」


 音波は記憶を辿りながら話を続ける。



「前にね、部室に遊びに行ったとき、ドースの曲を叩いてくれたよね」


「あー、うん」


「あの曲、大好きなんだ」


 音波の顔から緊張がとれていく。


「私が中二の時でしんどいときに、偶然聴いてね、気持ち沈ませてないで弾けろって感じて、それでファンになったんだぁ」


「…へぇ、そう…」



「高校生からやってて、大学生になってもずっと続けてて、凄いなって」


「あー、」


「でね、あんなに上手に叩けるんだから、片山くんも好きなのかなって思ったの」


「まぁ、好きでなきゃ演らないし、叩かないし」


 音波は、片山が好きと言ってパァッと笑顔になる。


「本当?嬉しい」


 片山はポツリと言う。


「…テンション高い」



「今度、DOSE.(ドース)が出演する大学の軽音祭に行くんだけど、ウチの高校も出るって佐藤くんが話してたから、片山くんと佐藤くんも見に行くなら、4人で一緒に行けたらいいなって思って」



「あー、行くけど一緒には無理」


「あ、そうなんだ」


 音波は、用事で遅れて行くという意味かと思った。


「会場では会えるんだよね」


「…多分、無理…サポートするから忙しい」


「そっか」


 音波は、少し残念な気持ちになる。



「…もう、曲決まったし」


 片山の言葉に音波は答える。


「うん、もう曲決まったから今夜の配信で発表するんだよね」


「配信も聴いてるの?」


「うん、不定期だけど毎回楽しみにしてる」


「…そうなんだ」


「片山くんも聴いてみれば?今夜だよ。23時から」


「…あー、…そんなに好きなの?」


「うん」


 音波は、片山と音楽の話がやっとできたので、凄く嬉しそうに笑った。



 片山は音波の笑顔を見て、頭の奥に懐かしさと鈍い痛みを感じた。


ーー(まただ…知ってる)ーー


 その痛みは不快なものではない。


 懐かしい…でも何かを忘れているような、そんな気にさせる痛み。



 片山は、駅の階段下まで送り、音波が改札を通って姿が見えなくなるのを見届けると、自転車の向きを変えた。



 自転車に跨またがり、漕ぎ出す。


 生温なまぬるい風をきりながら、自転車を漕ぐ。


(…、あんなの見たから、つい自分から送ると言ってしまった…

 当日、どうすっかな…)



ーー


 夜、音波は、DOSE.(ドース)のSNSを見ていた。



DOSE.☆MAIN


「8月の大学合同軽音祭に来てくれるみんな、

 こちらにコメントしてくれると、嬉しいです。

 当日、僕たちと祭りを盛り上げよう!」



DAICHI☆DOSE.D

「みんなに会えるの待ってるよ!」


△△△☆dose最高

「絶対に行く」


△△△☆Dose.推し

「舞玉から駆けつける」


△△△☆DOSE.LOVE

「会いに行くよ」



Nami☆DOSE.ファン

「友達と行きます」



Sei☆DOSE.N

「♫♬♪」




(あ、Seiさんも当日行くんだ。)



 どんな人かも、どこに住んでるかも、年齢も、性別も分からないけど、もし会えたらいいのにな…。

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