第15話 1-4-2 「どこの学校?」

1-4-2 「どこの学校?」 耳より近く感じたい



ーー7月、夏休み前


「おーい、音波ー、ちょっと降りてこい」


 一階から音波の父が呼ぶ。


(何だろう?)


 音波は、自分の部屋を出て、階段を降りていく。



「なーに?お父さん」


 リビングに入ると、箱が幾つか開封された状態になっている。


「おーきたきた、音波が使ってるヘッドフォン、大分くたびれてきただろう?

 新しいの買ったから持っていけ」


 父親はそう言って、音波に渡す。


 色は、無難に黒だ。


 少し大きめだが、耳への圧迫感がなさそうで、今まで使っていたものよりすこし軽い。



「お父さん、ありがとう」


 すると、父親はニヤリと笑った


「それ、ワイロな!」


「え、何、賄賂って不気味」



 音波が言うと、キッチンから母親が来て、夫の頭をコツンと叩く。


「お父さんふざけない!」


「はい、お母さんスミマセン」


 こんな些細なやり取りでも、うちの両親は仲良しだと感じる音波。



 父親が話の本題に入る。


「音波は夏休みバイトするのか?」


「出来ればやりたいんだけど、なかなか無くて」



「そうか、カラオケBOXとかは、どうだ?場所は御茶ノ泉

 実は父さんの知り合いが仕事してるところで、バイトの募集かける前にツテあたってて、あと一人誰かいないかって連絡してきたんだ」



「うん、いいね、やりたい」


「そうか、じゃあ今から連絡するけど、いいな?」


「うん、私も助かる」


「わかった。多分一回緩い面接があると思うが、詳しくはまた後で聞いて話すからな」


「うん」


 音波は、実際助かった。


 理由は、先月まで貯めていたお小遣いを、グッズ購入で殆ど使ってしまい、今月分も減っていたからだ。



 音波は、グループチャットに書き込んだ。



円井

「夏休みのバイト、ほぼ決まりました!(≧▽≦)」


「何するの?」


円井

「カラオケBOX」


佐藤

「場所カモーン」


円井

「御茶ノ泉」


「歌いに行くよ」


佐藤

「聖地じゃん」


円井

「遊びに来てね」


「おめでとう」


佐藤

「行く」



(片山くんは、見てないのかな?

 忙しいのかな?)


……


片山………入力中


片山

「(・∀・)」



(ふふっ、片山くんらしいな)



ーー夏休み 御茶ノ泉


「今日から入る新人さん2名です。

 先輩方は、優しく教えてあげてください」


 音波は緊張しながら挨拶する。


「円井音波です。宜しくお願いします」


 隣りにいる男子が続けて挨拶する。


「関 智也です。宜しくお願いします」



ーー

…初めてのバイト初日を終えた音波。


 数日は研修期間だが、覚えることは結構ある。


 音波は、ふくらはぎに張りを感じつつ、充実した疲労を味わっている。



 お疲れさまでした、と挨拶をし、フロアを歩いていると、長身で長髪を後ろに束ねた男性がトレーを持って反対側からやってきた。



「あれ、新しく入った子?」


 音波が挨拶する。


「円井音波です。宜しくお願いします」


 男性は軽く会釈して言う。


おさむです。大学生です。

 シフトズレてるみたいだから、あんまり会わないかもだけど、ヨロシク」



 修と名乗った大学生を見て、音波は何処かで見たような気がすると思ったが、大学生に知り合いなんかいない。


 他人の空似か何かだろう…。


 ノリが良さそうな人だな、と音波は思った。



 修は、仕事中なのにスマホを取り出しながら話しだす。



「オトハちゃんマルイって言うんだ。どこの学校?」


「美笠の第一高校です」


 修は何やら文字を打ち込んでいる。



「あ、そうなの?一人で帰るの?

 彼氏とか迎えに来ないの?」


 修は凄いスピードで文字を打ち込んでいる。



「え、彼氏いませんよ」


「そーなんだ、可愛いから、いると思った」


 修は打ち終わり、スマホをしまった。



「じゃあ、気をつけて帰りなよ」


「はい。お疲れ様でした」


 音波は、ペコリとお辞儀をし、店を出た。

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