第11話 1-3-2 壊れた眼鏡とサンドイッチ

1-3-2 壊れた眼鏡とサンドイッチ 耳より近く感じたい



ーー週明け 月曜日


教室前


 音波が登校して教室前まで来ると、女子達が廊下側の窓から教室を覗いている。


 なんだろう?と思いながら、音波がなんとか教室に入ると、梶が駆け寄ってきた。


「音波、ホームルームが始まるまで席に居ない方がいいよ」


 梶は、音波の腕を引っ張りながら言う。



 教室の奥まで移動し、音波に言う。


「先週の体育祭で、片山がイケメンだってバレたんだよ。

 アタシら廊下側の席だから、居るとアレコレ聞かれてめんどくさいよ」


 梶の言葉で、音波は納得した。



 教室内を見渡す。


「片山くんは、まだ来てないの?」


「まだ。それか、何処かに隠れてるんじゃない?」



キーンコーンカーンコーン


 予鈴のチャイムが鳴る。


 集まっていた女子たちが残念そうに散っていく。



 本鈴のチャイムが鳴り、担任が入ってくる。


「おーし出欠とるぞー席につけー」


 片山と佐藤は、まだ来ていない。


「なんだ、軽音コンビは揃って休みか」


 その時、教室のドアが開いた。



「スミマセン、遅れました」


 最初に入って来たのは佐藤だ。


 次に入って来たのは片山だが、いつもと様子がおかしい。



 メガネを掛けていない。


 佐藤の肩をガッチリと掴んでいる。


 片山は視力が悪いのだ。


 佐藤に誘導されながら、片山が席につく。



ーー昼休み


 音波と梶は、席を離れ、佐藤たちのところに移動する。


「休み時間は暫くコッチで食べよ」


 梶の提案に音波も承諾する。


「片山くん、一気に凄い人気だね。

 メガネ、どうしたの?」


 音波が聞くと、片山は理由を話してくれた。



「…駅の改札を出たあと、曇ったメガネを拭こうとしたら、人がぶつかってきて…、メガネ落として自分で踏んで割った」



 購買に行っていた佐藤が戻ってきた。


 適当に買ってきたパンを片山に渡しながら言う。


「中学時代の再来だな。ほい」


 片山は、うつ伏せたまま返答する。


「うるさい。メガネは割るし昼飯買いにいけないし女はうるさいし最悪」



 音波が自分のバッグを取り出し、片山に言う。


「今日サンドイッチなんだけど、足りないなら食べる?」


 梶と佐藤がサンドイッチを見る。


「わー、音波が作ったの?」


「すげー円井」



 梶と佐藤が褒めるので、片山も気になったらしい。


「見えない。何挟んでんの?」


 片山の問いに音波が答える。


「玉子と、レタスハムチーズと、シーチキンマヨネーズと、チキンカツ…」



「…チキンカツ」


 片山は手を出して、乗せてと催促する。


「う、うん」


 音波がチキンカツサンドを片山の手に乗せる。


 片山は尋ねる。


「音波が揚げたの?」


「え?そうだよ」



「え、成斗、」


『"食べるの?"』というような顔で佐藤が片山を見る。



「美味い」


 佐藤が羨ましそうに言う。


「ひと口食べさせて」


「やらない」


 片山はペロリと食べてしまった。


 梶が茶化すように言う。


「なーに、胃袋つかまれた感じ?」


 片山は、それには答えず、佐藤が適当に買ってきた中からアンパンを取り、音波に差し出す。



「玉子と交換」


「あ、うん」


 音波はアンパンを受け取り、空になった片山の手に玉子サンドを乗せる。



「成斗ズルい。2個も貰いやがって」


 佐藤が恨めしそうに片山を睨む。


 梶が言う。


「次回貰えばいいじゃんか」


アハハ…



 音波は思った。


(背中に刺さる視線が痛いのは、私なんかがイケメンの片山くんたちと話してるからだよね?)



一方、片山は、


(…久しぶりに食べた気がする…、

 店で売ってる以外の…人の手作り)



 そう思いながら、玉子サンドを口にする。



 体育祭以降、最初は『アンタ』と呼んでいた音波のことを、『音波』と名前で呼ぶようになっていることに片山が気づいたのは、7月に入ってからだった…。

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