第9話 1-2-4 口角が上がった

1-2-4 口角が上がった 耳より近く感じたい



ーーファミレスにて


 佐藤が最初に話しはじめる。


「そーいや俺たちがこうやって集中的に話すのって初めてだよな」


 梶は頷きながら言う。


「教室の端と端だからね」


「じゃ、円井がビックリしてくれたおかげだね」


 佐藤がからかうように言う。


 音波は赤面する。


「佐藤くん、意地悪だね」



 誰かの電話が鳴る。


 片山はスマホを取り出し、


「悪い、外で話すわ」


 と言って、出ていった。



 梶が本題に入る。


「アタシ思うんだけどさ、片山はなんでボサボサ頭で眼鏡なの?」


 佐藤が、外にいる片山を見て言う。


「アイツさ、中学の時から凄くモテて、しょっちゅう告白されてたのよ。

 呼び出されるたびに律儀に行くワケ。

 で、好きになった理由が見た目ばかりにウンザリしたんだと」


 佐藤が続ける。


「でさ、呼び出しの手紙にキレて、用があるならお前が来いって書いて、下駄箱に貼り付けたのよ」


 梶が笑いながら言う。


「ナニそれウケるw」


 佐藤が続ける。


「そしたらさ、本当に来て教室中女子ばっかりになってさ、あれは凄かった」



 片山は、まだ戻ってこない。


 梶が言う。


「だから、見た目ダサくしてるんだ」


「梶みたいに目ざとい女子には、すぐにバレるから無理だって。

 成斗にも言ったんだけどな」


 音波がポツリと言う。


「でも、一ヶ月半は 普通に過ごせたんだよね。

 あ、もしかして私のせいで実花が片山くんのことカッコいいって分かったのかな?」



 梶が頭を傾けて言う。


「彼女いないから告白されつづけたんでしょ?

 だったら彼女作っちゃえば?」


 佐藤がフォローする。


「アイツ、部活と別に用事あるからデートとかする時間ないもんな」


 梶が食い下がる。


「えー今だって時間あるじゃん。

 他所よそから見れば、アタシたちダブルデートみたいでしょ」



ーーえ、?ーー


 音波と佐藤が梶の発言に沈黙する。


 佐藤の顔が、みるみる明るくなる。


「ソレいいね!本当のカレカノじゃなくても、寄って来なくなればいいんだし。

 俺も成斗のお守りしなくて済むし。

 女子とこーやって話せるし!」



 片山が居ないのを良いことに、盛り上がる佐藤と梶は、勝手に話を決めていく。


「梶と円井と成斗と俺、どういう組み合わせにする?」


「時間が合うときに4人で集まる的な感じでしょ。

 そうだ音波は片山と組みなよ、片山とだったら少しは話が出来てるし」


「うんうん、いいね。そうしよう」



 佐藤は、音波に言う。


「心配しないで、カップルっつってもダミーだから」



 音波は少し黙って、口を開いた。


「片山くんには、入学式のときに助けてもらったし、お返ししたいけど、私なんか釣り合わないよ」


 佐藤は不思議そうに言う。


「え?円井は可愛いよ?クラスの中では上位だろ」


 サラリと褒められた音波は、顔を真っ赤にして俯うつむいてしまった。



 佐藤と梶は音波に気にもとめず、更に盛り上がる。


「カレカノだったら呼び方だよね」


「だな。下の名前で呼んだら」


「アタシは実花ミカ、佐藤は?」


「俺?啓太ケイタ


「音波はオトハで、片山は?」


 佐藤が答える。


成斗セイト



 音波は心配になってきた。


「片山くん抜きで話を進めていいのかなあ…」


 佐藤が言う。


「普通に集まって話をするだけだから構わないっしょ。

 当分は今日みたいなもんでいいんじゃない?」



ーそんなもんなのか?ー



 ここで、ようやく片山が戻ってきて席につく。


「中から俺のことチラチラ見てたけど、何話してたの?」


 佐藤が言う。


「中学時代のお前の”下駄箱事件”」


「何、勝手に話してんだよ…」



 戻ってきた片山を見ながら、音波は残りの疑問を本人に聞いてみる。


「片山くんの後ろのほうの髪、いつも跳ねてて気になってたんだけど…」


「あー、ガキの頃怪我した時に縫ってから、変な方向に跳ねるようになった」


「そうなんだ…傷、深かったんだろうね、痛そう」


 音波は痛みを想像してギュッと目をつむる。


「あー、今でも痛いわけじゃないし。

 …アンタが痛がってどうするの」


「あ、それもそうだね、あはは」



 片山は思った。


(人って、こんなに表情豊かなんだな…

 俺は感情を表に出すのは苦手だから、顔に出さないようにしてる…

 でもコイツは…)



 片山は音波に向かって言う。


「アンタの顔、コロコロ変わって面白い」


(フッ…)


 片山の口角こうかくが上がった。



(あ…片山くんが今、笑った…)


 初めて話してから今日まで、片山が僅かばかりも笑った顔を見たことがなかったので、音波は片山のレアな表情を見ることが出来て嬉しくなった。

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