第6話 1-2-1 4人なのに5人

1-2-1 4人なのに5人 耳より近く感じたい



 円井音波マルイオトハ 15才


 高校生活にも慣れてきて、そろそろ余裕も出てきた。


 高校生になったらやってみたいこと、それは好きなバンドのライブに行くことだ。




 夕食後、音波はリビングでスマホをいじっている。


 ピンポンと玄関のチャイムが鳴る。


「母さん手が離せないから音波ちょっと出てくれる?」


「はーい」


 音波は、パタパタとスリッパをならしながら玄関のドアを開けた。




「ただいま 音波」


 立っていたのは音波の兄、いつきだった。


「樹お兄ちゃん!おかえりなさい」


 音波は樹に抱きつく。




 音波の兄は、大学進学と同時に大学の近くで一人暮らしを始めている。


 樹の容姿は、清潔感のある爽やかな好青年といった感じだ。


 街を歩けば女性陣が見惚れるレベルである。


 音波とは4歳差である。




 二人でリビングに入る。


「樹、ちゃんとご飯食べてる?」


「ああ、大丈夫だよ母さん」


「お兄ちゃん彼女とか出来た?」


「お兄ちゃんは勉強しに大学通っているんだから」


「ふーん」



 音波の兄、樹は笑いながら、バッグの中からA4サイズの封筒を取り出す。


「今日は音波が喜ぶものを持ってきたよ」


 と言って、音波に封筒を渡す。


 なんだろうと、音波は受け取った封筒の中を覗き込む。


「クリアファイル?」


 クリアファイルの中から、挟まっているものを数十枚取り出す。



「うわぁっ、これってもしかしてDOSE.(ドース)のオフショットもあるの?」


「そうだよ。俺もビックリしたんだけど、メンバーも同じ大学なんだよ。

 今年入学してきた」


「凄いね!」



「サークルの関係で知り合ってね。

 妹が好きで聴いてるって話したら、今度、活動費の為に限定で売るから、ドレなら欲しいか参考にファン目線で選んでくれって頼まれたんだ」


「ファンとしては全部欲しい」



「メンバー1人につき3つ選んで。

 あと集合写真は2つ。

 出来れば今選んでほしい」


 樹は話しながら、別の紙を音波に渡した。



「このリストに番号付けて」


「うん、分かった」


 音波は、次々と番号を書いていく。


 リストと写真を見比べる。


「あれ、この集合写真だけ5人写ってるし、この人顔見えない」


「ああ、"そのコ"が写ってないやつ選んで」


 音波は怪訝けげんな顔をしながらも、一通り番号をつけ終わった。



「お兄ちゃん終わったよ」


「サンキュー音波。

 じゃあ帰るよ母さん」


 音波から受け取ったリストをバッグに収め、樹はスッと立ち上がる。


「えーお兄ちゃんもう行くの?」


「うん、外で友達を待たせてるんだ。

 それに、これ、早く渡さないと色々進まないから」



 玄関まで見送る音波。


「彼女出来たら紹介してね」


「ああ分かった、出来たらな」


 樹は、音波の頭を撫でながら、少し悲しげに笑った。




 玄関を出て、少し先に停めてある車に向かう。


(音波にも、いつか彼氏とか出来るのか…)



 樹は後部座席にバッグを置き、運転席に乗り込み、ドアを閉める。


「待たせた」


 シートベルトを着けていると、助手席から手が伸び、樹の腕に触れる。



「樹、なんか辛そうな顔してる」


「…何でもないさ、少し疲れてるだけだ」


「何年、樹のこと見てきてると思ってるの?」


「…」


 樹はエンジンをかけ、車を発進させた。

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