第7話 1-2-2 イケメンは軽音部

1-2-2 イケメンは軽音部 耳より近く感じたい


ーー中間テスト最終日、5月


「あー、やっとテスト期間終わったねー音波は赤点なさそう?」


 梶が、机にうつ伏した音波の頭を、人差し指でツンツンしながら問いかける。


「うん、多分大丈夫だと思う」


「アタシと帰りにデートしようよ。


 頭使ったから甘いもん食べに行こう」


「うん食べたい」



 音波が机からムクリと頭を上げたと同時に、廊下側…音波のすぐ後ろの窓がガラリと開いた。


「おーい片山いるー?」


「ひゃああっ!」


 音波は、突然背中に迫ったヒトの圧あつと大声に驚き、突拍子もない声を上げて椅子から落ちてしまった。


 教室にいるクラスメイトと窓を開けて叫んだ男子の視線が、音波に集中する。



 音波は思った。


(ああ、ハズカシイ///)



 窓から身を乗り出していた男子が慌てて言う。


「ごめん!寝てた?申し訳ない」


 梶が音波の代わりに応える。


「いきなり窓開けたら寝てなくたって驚くわ」


「やーマジでごめんねー」


 音波は、引きつった顔をしながら言う。


「だ大丈夫、ビックリしただけー」



 片山が教室奥から歩いてきて、音波の前に立つ。


「…アンタ、大丈夫?」


「…うん平気」


「そう、よかった」


 片山はそう言うと、ドアから出ていき、名前を呼んだ男子と暫く廊下で話しこみ、一緒に行ってしまう。



「ねえ音波、片山ってミステリアスだよね。

 いっつもボサボサ頭だけどさ、あいつ絶対カッコいい部類に入ると思うんだよね」


 音波は梶のイケメン判定に片山が追加されたことに同意する。


「うん、カッコいいとは思う。

 でも、いっつも寝てるよね?」



「音波はイケメンに興味ないの?」


「全く興味がないとは言わないけど、

 イケメンと付き合うとか、大変そうだし。

 好きなバンドでお腹いっぱいかな」


「あーハイハイ。音波が恋するのは、まだ遠いみたいね」


「あはは、今は別にいらないかな。

 好きな人がいないと、恋もできないし」



 ……別に恋愛をしたくないわけでは無い。


 ただ、好きなコトを共有し、お互いに励まし合う…


 どこの誰かもわからないけれど、


 そういう人が居る


 今はそれだけで充実してる


 同じDOSE.ファンのSeiさん……



ーー次の日、


 音波の席の廊下側の窓が、再びガラリ!と開く


「片山と佐藤いるー?」


「ひゃあっ!」


 音波は昨日と同じく椅子の前にしゃがみ込む。


「あーごめん、また驚かせちゃった?」


 男子が言い終わると、梶が怒りだした。


「そっと開けるかドアから声かけなよ!」


「悪い悪い」



 佐藤が慌てて音波たちのところに来る。


「ごめんね、円井さんだっけ?

 こいつボーカルやってるから声デカくて」


 ピン!ときた梶が、佐藤に尋ねる。


「バンドやってんの?」


 佐藤が答える。


「うん?俺ら軽音部」


 音波は驚いた顔で佐藤に質問する。


「軽音楽部あるんだ」



 梶がしめた!と何かを画策する表情をして、佐藤に話しかける。


「見たい見たい!部室遊びに行っていい?」


 佐藤はキョトンとした顔で頷く。


「別にいいけど?」


「やった!音波も付き合ってね」


 音波は梶の提案に戸惑う。


「ええ!私も?」



 佐藤が、ゆっくり歩いてくる片山の方を見て、シマッタ!と顔を曇らせる。



 片山の声がキレ気味に言う。


「啓太、テメェ」


 梶は、発言撤回を防ぐように言う。


「はーい男に二言なーし決定!」


 片山が深く溜め息をつき、


「はぁ、…今日だけなら、いい」


 と承諾した。


「ヤッタネ音波!」


「ぇぇぇ…」



(なんか、片山くん怒ってる?

 本当に行ってもいいのかなぁ…)



 片山と佐藤が教室から出ていったのを確認して、梶が音波に言う。


「片山のメガネとった顔を拝めるチャンス到来。フッフッフ」


 ああ、そういうことか…と音波は納得した。



(私は、片山くんがイケメンかどうかを実花みかが確認するのに、付き合わされるんだ)

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