第17話 友達の月世ちゃんへ、私から送るのはお説教

〈裏の世界〉では時間が早く進む。そのせいもあって、お祭りはとっくの昔に終わっていた。

 お城に着いてからが困った。考えずに飛び出してしまったが、お姫様の部屋って勝手に行っても良いのかな。そもそも、お城に入るのが良いのかも分からない。思い切って扉を開けちゃうか、ノックをして中からの反応を確かめるか。

「あ、良かった。扉が開いてくれた! ナイスタイミング~・・・・・・って、ええっ!?」

 いやいやいや。ノックも何もしてないのに、都合よく扉が開くなんてことある!?

 パニックになって、扉の前を行ったり来たり、グルグル回っていた。

「お城の前で騒がないで。邪魔だから」

「つ、月世ちゃんっっ!! まさか、これがテレパシー!? 気持ちが通じ合ったんだね」

「崖上から箒で飛ぶ人影が見えただけ。私の部屋にも小さなバルコニーがあるから」

 嬉しさのあまり騒いでも、月世ちゃんは素っ気なく返すだけ。気持ちが通じ合ってテレパシーが使えたと思ったからショック。

「ここで喋っていても仕方ないから、部屋に行くわよ」

 ついて来て、と月世ちゃんのお部屋に案内される。フカフカそうなベッドにクローゼット、鏡台、勉強机と椅子があるくらいかな。イメージ通り、整頓されていて物が少ない。部屋一面黄色で、天井にクレーターのようなものがあるのは他の部屋と一緒だなぁ。

「何しに来たの? 〈表の世界〉はそろそろ夜になるはず」

「月世ちゃんにお説教しに来たんだよ!」

「はぁ? どうして説教されなくてはいけないの。しかも、その高いテンションで」

 ビシッと決めたつもりだったが、訳が分からないと不服そうに眉をしかめられた。月世ちゃんと同じ立場なら、私だって意味が分からず困ってたと思う。

「どうしてって、月世ちゃんが自分のことしか考えてないからだよ。『試練』をクリアさせたいっていう、自分の望みを叶えるために、他の子の気持ちを知ろうとしなかったでしょ。相手のことを知ろうとしなかったら、自分の意見を一方的に押しつけるだけ」

「知ろうとしないとか言われても、練習期間が短いから無理。それなら、相手を知ることより完成度を高めることに時間を使うべき」

「練習期間は関係ないよ。『相手のことを知りたい』って気持ちがあるかどうか」

「私の気持ち? そんなものでシンデレラが成功するとは思えない」

 ふんっと鼻を鳴らす月世ちゃんは諦めきった顔をしている。一番悲しいのは、その諦めた顔を私に向けてること。諦めるってことは、相手を信じられず、可能性を見つけられないってことだ。

「じゃあ、思い出してよ。私が口に出さなくても、『あなたの考えていることが分かる』って当ててたでしょ。会って時間が経ってないのに、当てられたのはどうして?」

「どうしてって、あなたの思考が単純だから―」

「違う。月世ちゃんが私のことを『知りたい』って思ってくれたから、少し一緒にいただけで分かったんだよ。ね、本気で相手を『知りたい』って思えば、時間なんて関係ないでしょ。大事なのは、相手を『知りたい』って気持ちがあるかどうか」

 月世ちゃんは黙り込んじゃった。多分、心の中では気づいてるんだと思う。焦って自分の意見を押しつけただけだって。八つ当たりしちゃっただけだって。

―あなたって、表情がうるさいから何を考えているのかすぐに分かる

 これは、初めて会話した次の日に言われた。どうでも良い相手の表情を見て、わざわざ考えてることを予想しようと思う? 絶対にない。どうでもいい相手なら、表情を見て気持ちを考えるより、適当にやり過ごそうって思うはず。仲良くなりたい、少なくとも『知りたい』って気持ちがなければ、相手の表情から気持ちを考えようとは思わない。

「明日、クラスの子達に謝ろう? それで、ちゃんと仲直りしよう?」

「どうして私が謝らなくてはいけないのよ」

「月世ちゃんに悪いところがあったからだよ。自分でも気づいてるでしょ」

 うっとうめき声がした。やっぱり、月世ちゃんは気づいてる。他人にはっきり「悪い」と指摘されたことで、言い逃れできなくなるのはよくあること。この前の私と草くんのケンカだって、第三者の友ちゃんに「悪い」と指摘されたことで、草くんは認めてたもんね。

「・・・・・・謝るって、どうすれば良いのよ」

 お腹の底から絞り出すような声。苦しそうな言い方に、私も胸が苦しくなる。

「『ごめんね』って、たったこれだけ。その後に、自分の正直な気持ちや考えを伝えて、月世ちゃんを『知って』もらえば良いんだよ!」

「たった、それだけ」

 私の言葉を聞いて、月世ちゃんは「ごめんね」と口の中で呟いた。

「謝って、月世ちゃんのことを知ってもらったら、次は相手のことを『知る』!」

「それこそ分からない。あと一週間もないのよ。残りの時間こそ、練習にあてないと」

「ふっふっふ。一人一人とゆっくりお喋りしないといけないって思ってる? ちゃぁ~んと、私に考えがあるんだからね」

 ドンッと音を立てて自信満々に胸を叩く私へ、月世ちゃんが放った一言は残酷だった。まぁ、さっきみたいに諦めた顔をされたわけじゃないから良いんだけどね。

「あなたが張り切っている時って、心配しか感じないのよね」

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