第16話 おばあちゃんはお悩み解決のプロ
「ただいま・・・・・・」
「おかえりなさい。おや、今日は元気がないわね。学校で何かあったの?」
「うぅ、おばあちゃん」
家に帰るなり、おばあちゃんの優しい声を聞いて涙が止まらなくなった。私が泣いたって状況が変わるわけじゃない。分かっているのに、涙が止まってくれない。
おばあちゃんは、私を抱きしめながら泣き止むのを待ってくれた。ギュッとされてると安心できたし、何よりも温かかった。
「ひっく、おばあちゃん、ごめんね。もう、大丈夫だから」
「そうかい。いっぱい泣いて疲れたでしょう。お食べ」
そう言って差し出してくれたのは、私が大好きな桜餅。一口かじると、甘すぎない桜あんと、もちもちした食感が、口の中で合わさる。
「おいしい」
手の上にあった桜餅が、あっという間に消えてしまう。
「ねぇ、おばあちゃん。話、聞いてくれる?」
「もちろん」
私は、〈裏の世界〉に関わること以外の全てを話した。月世ちゃんがシンデレラの成功に固執していること、そのせいでクラスの雰囲気が悪くなったこと。おばあちゃんは終始頷きながら、話を聞いてくれた。やっぱり、聞き上手だなぁ。
「―っていう感じで、今日、ついに大きなケンカになっちゃって。私、どうするのが正解か全然分からなくて・・・・・・」
「それは大変だったねぇ」
よしよしと頭を撫でてくれるのは、小さいけど安心する手。
「陽菜ちゃん、お友達になりたい子がいると必ず言う言葉があるわよね。月世ちゃんって子にも教えてあげたらどうかしら」
「そんな言葉、あったっけ?」
おばあちゃんに撫でられてる頭で、必死に自分の言葉を思い出す。・・・・・・あ! あれか!
「『仲良くなるためには、相手を知ることから始めないと』だよね!」
「それよそれ」
私が思い出したことを、まるで自分のことのように喜んでくれる。
「ありがとう、おばあちゃん! 月世ちゃんにはクラスメートを、クラスメートには月世ちゃんを、知ってもらえば良いんだね。相手の気持ちを知らずに反論したら、言い争いになるだけ。相手の気持ちを知っていたら、それを踏まえて自分の意見を伝えられる。言い争いじゃなくて、『話し合い』をすることができる」
「解決できそうね」
にっこり笑うおばあちゃんの笑顔は、優しさに溢れてる。相談して良かった。
月世ちゃんの『試練』は大事。でもその前に、クラスメートのことを知って、仲良くなることが大事。そうしないと、シンデレラという一つのものを、クラス全員で完成させるなんて無理。「仲良くなるためには、相手を知ることから始めないと」って言ってる私が実践できなくてどうするのよ!
「おばあちゃん、本当にありが―」
「さ、早く校舎裏へおいき」
「っ!?」
この部屋の時間と私の呼吸、その全てが止まった。実際に止まったわけじゃないが、私の中では確実に止まった。そういえば、前に『校舎裏の話』をした時、悲しそうにしてたっけ。話自体は知ってたとしても、それを持ち出す理由が分からない。
「大事なのは、月世ちゃんって子とお話することでしょ。いえ、お説教の一つでもしてあげなさい。それができるのは、陽菜ちゃんだけ。
もうすぐお父さんとお母さんが帰ってくるわ。陽菜ちゃんは疲れて寝ちゃったって伝えておくから、今の内に行きなさい。悩んで動かずにいたら、チャンスを逃しちゃうわよ。そういうのは、時間が経てば経つほど仲を取り戻せないこともあるんだから」
「う、うん」
おばあちゃんの言う通りだ。このまま動かずにいても、何も変わらない。今の内に「月世ちゃんの友達」として、私にできることをしたい。
「お願い。私が出かけたこと、お父さん達にはバレないようにごまかして!」
「任せなさい。おばあちゃんは聞き上手なだけじゃないんだよ」
その言葉を聞くと同時に家を飛び出した。
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