第9話 月世ちゃんの手助け?
学校はいつも楽しいけど、今日はいつも以上。行くのが楽しみでしょうがないし、わくわくした気持ちが止まらない。学校へ行くまでは、月世ちゃんとどんなことを話そうか、ずっと考えてた。約束したから使わないけど、クラスで魔法を使って驚かれる様子なんかも想像しちゃう。ずっとにやにやしていたせいで、一緒に登校していた友ちゃんと草くんには怖がられたけど。
学校へ着くなり、大きな声でクラス中に挨拶した。一日の基本だしね。
「おっはよ~」
「おはよう、陽菜ちゃん」
「お、白時じゃん。お前は今日も元気だな」
優花ちゃんと強田くんが挨拶を返す。予想通り、顔を合わせるなり強田くんが昨日の話題を振ってきた。
「なぁなぁ、白時。昨日言ってた『校舎裏の話』の証拠、持ってきたか」
「あ、俺もそれ気になってた~。早く見せてよ」
強田くんの後ろから、小さな影がひょっこり顔を出す。小山内くんだ。二人は「早く証拠を出せ」と私を急かす。この顔、証拠なんてないだろって思ってる顔だ。くぅ~、本当は言いたい。魔法使いはいるんだぞって。言えないのが辛い。
隅にいた本山信二くんが、本を閉じて近寄ってきた。
「僕も白時さんが言ってた証拠っていうの、見てみたい。本物かどうか気になる」
そういって、一冊の本を私の目の前に突き出す。カラフルな表紙で目が痛くなりそう。
「『お化けと妖怪の大合戦』? 面白そう! 私も読んでみたいな。どっちが勝つんだろう」
周りから「おい」という目で見られる。あ、忘れてた。本山くんは、本を語り出すと周りが見えなくなる。普段は口調がきつくて口数が少ないけど、本の話を始めると別人のように喋り出す。
「さすが、オカルト趣味の白時さん。この本絶対に気に入るよ。主人公の人間がお化けと妖怪の争いに巻き込まれてくって話なんだ。お化けも妖怪も最終的には自分達で争わずに、人間を驚かせたら勝ちっていうルールで戦い始める。しかも、標的が二種族の戦いに巻き込まれた主人公。両方向から驚かされて、さすがに怒りが大爆発。怒り狂った主人公が急にビームとか出して、お化けと妖怪を従えるって話なんだ。この話のおもしろいところは―」
「そ、その本気に入ったみたいだね。信二くんは目のつけどころが違うなぁ」
本山くんの話を遮って、金高竜くんが割って入る。金高くんはすっごいお金持ちで、プロの人にセットしてもらった髪を常に触っている。前髪の位置への拘りがとにかく強い。きっかけは分からないけど、本山くんと金高くんは友達同士で一緒にいることが多い。
タイトルからお化けと妖怪が戦う壮絶なバトルものかと思ったら、急に人間が勝つっていう謎ストーリー。ビームとか出して従えるってどういうこと?? 意味が分からなくて、逆に気になる。
表情を見る感じ、金高くんも『校舎裏の話』の証拠が気になるみたい。
「信二くん、今は白時さんの持ってきた証拠を見ようじゃないか」
「ああ、そうだった。ごめん。早く証拠を見せて」
う、うわぁ。断りづらい状況になってきた。どうしよう。〈裏の世界〉のことは内緒って約束したし、絶対誰にも言えない。
ちらっと月世ちゃんの方を見る。すました顔で本を読んでいるが、耳だけはしっかりこっちに向けられてる。それもそのはずで、私が言わないように見張らないといけない。
視線の圧を感じたのか、月世ちゃんが振り返る。ばっちり目が合ってしまった。すっごく嬉しいけど、変に目を合わせて周りに怪しまれたら困る。
「あれ~、出せないってことは、お化けはいないってことだよなぁ」
「武くんの言う通りだね。証拠があるなら、それを出せば良いんだ」
強田くんと小山内くんのコンボ攻撃。認めたくないけど、内緒にするって約束を守るためにはしょうがない。ここは、「お化けは撮れませんでした」って認めるしかない。そうだよ。周りに嘘だと思われても、私が信じていれば良いんだ。
「ちょっと、陽菜ちゃんが困ってるでしょ。大人数で言い寄らないの。ね、陽菜ちゃん」
「え、あ、うん? そうそう。くるみちゃん、ありがとう」
慌てて微笑んでも、張枝くるみちゃんはそれに気づかなかった。
くるみちゃんのお陰で助かった。くるみちゃんは困ってる人を放っておけないヒーローみたいな子。いつも誰かを助けている。今日は私が助けられちゃった。
強田くんは間に入ったくるみちゃんを不満そうに見る。
「張枝だって、白時の証拠見たいだろ?」
「それはそうだけど、陽菜ちゃんが嫌がってたら無理には聞けないでしょ」
「昨日あれだけ張り切ってたのは白時だぞ。無理に聞いてるわけじゃないし」
「でも、陽菜ちゃんの顔はどう見ても困ってるでしょ。ねぇ??」
くるみちゃんと強田くんの顔が同時に向けられる。困ってるのは「早く証拠を出せ」って急かされてるからじゃないんだよ~。
どう返そうか迷っていると、本を読んでいた月世ちゃんがそっと立ち上がる。
「昨日はありがとう、陽菜」
「え」
昨日はありがとうってどういうこと? 確かに昨日の夜はずっと会ってたけど、お礼を言われるようことしたっけ? ざわざわとした喋り声が聞こえなくなる。シーンとした空間には、私と月世ちゃんにだけ視線が集まる。そうだよね、月世ちゃんが誰かに喋りかけるなんて、今までなかったもんね。しかも、私のこと名前呼びしてるし!
月夜ちゃんに片目で合図された。とりあえず、話を合わせろってことで良いんだよね?
「宿題を忘れたことに気づいたのが夜だった。それで、学校にいた陽菜が、私と一緒に教室まで行ってくれたの。だから、陽菜が『校舎裏の話』の証拠を見つける時間はなかった」
「そうそう! そうなんだよ。校門でばったり会っちゃってね~」
私のために嘘をついてくれたので、それっぽく話に乗る。演技は得意じゃないけど、上手くいったんじゃない?
「そ、そうだったんだな。それなら、証拠がなくてもしょうがない」
「陽菜ちゃん優しいね~。無事に宿題を持って帰れて良かったよ」
強田くんとくるみちゃんは信じてくれたらしく、しきりに頷いている。他のみんなも同様に、「黒夢さんが言うなら」と信じてくれたみたい。
「おはよう~。そろそろホームルーム始まるから、席に着いてね」
前の扉が音を立てて開く。和久井先生が挨拶をしながら教室に入ってきた。それを合図に全員がバラバラと席に戻る。
授業後。四年生の教室では、自由参加の練習が始まった。女王様になる『試練』を突破するため、月世ちゃんも参加している。
みんな、月世ちゃんが参加してることに驚いてるなぁ。今日の朝も、月世ちゃんが声をかけただけで驚いてた。これって、クラスの子と月世ちゃんとの間に距離があるって証拠だよね。人間関係を築き、シンデレラを成功させる。その目的を達成させるには、クラスの子との距離を縮めないといけない。まずは、喋りかけても驚かない程度には・・・・・・。
「集まってくれた人はありがとう! 台本を覚える、演技の完成度を高めるって意味でも、まずは読み合わせをしよう」
クラス委員長の実玖ちゃんが、台本片手に呼びかけた。和久井先生は、椅子に座って私達の様子を見守ってる。
シンデレラ役の月世ちゃんと王子様役の草くんが、台本を読む姿勢に入る。実玖ちゃんがスタートを言おうとしたら、強田くんが待ったをかける。
「朝良、ちょっと待ってくれよ。読み合わせの意味が分からねぇ」
「ごめんごめん。説明忘れてた。読み合わせって言うのはね、順番に台本を読んでいくことよ。出演者が台本を読んで、流れや息を合わせていくの」
「ほ~い。おっけーおっけー」
強田くんの適当な返しに、実玖ちゃんは顔をしかめる。ノリの良いところが強田くんの長所だけど、こういう時は大抵女子とケンカになる。
「ちょっと、その返事は何よ。やる気あるの?」
「あるある。ありますよ~だ」
「もう、返事くらいちゃんとして! みんな授業後に、集まってくれてるんだからね」
嫌な方へと予想的中。実玖ちゃんと強田くんが不穏な空気になってきちゃった。どうしよう。周りの子はどうすれば良いか困ってるし、和久井先生は間に入るかもう少し待つかで迷ってるみたいだし。
先生が腰を上げるのと私が口を開くのとが、同時だった。でも、私達より早く動く人物が一人。
「読み合わせ、始めたいんだけど。練習するために集まったのに、これだとシンデレラを成功させられない」
一瞬で二人のいがみ合いが止まる。声の主、月世ちゃんは台本を開いて一人で読み始めた。あっけにとられる私達をよそに、自分の台詞を読み終えてしまう。
「次はあなたでしょう」
草くんと台本を交互に見ながら顎でせっつく。草くんは「お、おう」と、らしくない返事をして、王子様の台詞を読み始めた。
シンデレラを成功させるため、クラスの雰囲気を良くしようと頑張ってるんだと思う。不器用なやり方だけど、台本を読み始めて二人のケンカを止めた。朝だって、くるみちゃんと強田くんが言い合ってる間に入って、私を助けてくれた。
このまま何事もなく進んで、月世ちゃんが『試練』をクリアできますように。
「カット~。お疲れ!」
実玖ちゃんの声で自分の世界から引き戻された。今はシンデレラの練習に集中しなくちゃ。『試練』を手伝うって約束したからには、何としてでも力になりたい。
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