第3話 いざ、噂話の調査へ

「真っ暗でいかにも『出そう』って感じ。最高~」

 清華小学校の校舎裏。時間は深夜。真っ暗な闇が辺りを包んで、不思議な空気が感じられた。私の直感が「ナニカ出る」って訴えてる。これは期待のし過ぎかな?

 小さなライトを持ってきたから、足元くらいしか照らせない。明るいライトを持ってきたら、お化けが逃げちゃうかもしれないからね。

 問題があるとすればただ一つ。家族に黙って家を出てきたこと。小学生が深夜に一人で出歩くって言えば、止められるに決まってる。だから、家族が寝静まったのを見計らって、家を抜け出してきた。

「ここならこっそり見張れるかな」

 そう呟こうとして口を閉じる。ついでに息も止める。いやいや、息を止めるのはダメでしょ。スーハー。よし、呼吸おっけー。

 変な一人芝居を演じ終え、近くの花壇に隠れる。ライトは消し、息を潜める。

「誰にもつけられてないだろうな」

 聴こえてきたしゃがれた声に、心臓が止まるかと思った。あと一歩、奥の方へ歩いてたら、見つかっていたかもしれない。

 見つかるのはマズい。誰かにつけられてないか聞くってことは、つけられて欲しくないってことだ。このやりとりを聞くには、このまま隠れていなくちゃ。

 手元のカメラを優しく撫でる。証拠をきっちりばっちり撮るために、お父さんのカメラを借りてきた。目的が証拠を掴むことだし、写真を撮れないのは困る。

「え、あ、ちょっと待って」

 私は極々小さな声で呟いた。危うく大声を出すところだった。今聞こえた声。どう聞いてもお年寄り、それもおじいちゃんみたいな声だった。まさしく、噂通り。

 向こうに聴こえちゃうんじゃないかってほどに、心臓が大きな音を立てる。意味もなく胸の辺りを両手で押さえた。静まって欲しい。

「つけられてない」

 おじいちゃんの声に答えたのは、少し低くて安心する声。透き通るように美しい。聞き惚れちゃいそうになるくらい、ずっと聞いていたい。・・・・・・待って。この声、どこかで聴いたことあるぞ。どこだったかな。

 私が考えている間にも、会話は続いていく。

「良かろう。それでは、扉を開くぞ。準備は良いな」

「問題ない」

 聞こえてくるのは、しゃがれた声と透き通るような声だけ。あそこで会話してるのは、二人ってことで良いのかな。最初の声は、『校舎裏の話』に出てくる声と同じ。次の声は、透き通るような美しい声。

 これは、お化けの証拠写真となるはず。お化けじゃなかったら、その時はその時。とりあえず、何でも撮れ! その志を胸に、少しだけ声に近づく。カメラを構え、シャッターに指を置く。震えながらもボタンを押しこ―。

「・・・・・・」

「な、え、光ってる!?」

 意味の分からない言葉が聞こえたと思ったら、目を閉じたくなるほどの強烈な光が辺りを包み込む。目を開けていられない。

 訳も分からないまま目を覆っていたが、そんなことしてる場合じゃない。この光、導くような声。

「『校舎裏の話』と一致してる」

 必死に目を開き、光の先へと向ける。

 真実を探さなきゃ。

 そう思った矢先、光の筋が細くなり、薄くなっていった。

「もしかして、消えちゃう!?」

 何でか分からないけど、このチャンスを逃したら終わりな気がする。

 なりふり構っていられない。気づいたら体が動いていた。光の奥に向かって無我夢中で手を伸ばす。とりあえずの全力ダッシュ。光の中に入ってしまえばこっちのもん。あとは・・・・・・ええい、どうにでもなれっ!

 消えそうな光の中へ、滑り込みギリギリで体をねじ込む。正確には、体の一部が光に触れた瞬間、吸い込まれるように入っていけた。

「こら、待ちなさい」

 全身が光の中へと吸い込まれる直前、しゃがれた声が聞こえてきた。さっきの「つけられていないか」と問いかけていた声と全く同じ。噂話に出てくる声。

 きっと、答えはすぐ目の前にある。不安が一切ないわけではない。でも、それを超えるほどの好奇心が今、私の中に溢れている。

 知りたい。知らないから、知りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る