寂しん坊の肖像
本作は第五回こむら川朗読小説大賞と第四回偽物川小説大賞に参加するために書き下ろしたものです。
というわけで、前者のレギュレーション「男性一人称」「朗読」「6000字」と後者のレギュレーション「テーマ:愛」を満たすものを、と目指しましたがまぁ難産でした。
〈手紙という形式〉
朗読かつ男性一人称で映えるものとして、前作『巡楽師ディンクルパロットの日誌』では日記を選んだのですが、今回は手紙。
これは以前、某男性声優による江戸川乱歩『人間椅子』の朗読を聴いたのですが、それが大変素晴らしかったものですから。今回は是非やってみようと思ったわけです。
また、こうした古風な言い回しこそ人の声で聴きたいなぁという、個人的な趣味も多分にありました。
しかし『人間椅子』で16000字ですからね、ちょっと無理したなぁという感じではあります。手紙なのにねっとり描写してこそ、「僕」の愛が伝わるんじゃないかなぁと思いましたので……
しかし一番の問題点は、これが「僕」の手紙だけで、画家の反応を挿入できなかったことでした。その方が自由に画家のその後を想像していただけるかなぁとも思ったのですが、手紙が主観的で一方的なものだという特徴が、今回の作風も相俟って、強く働き過ぎたようでした。つまり本作は「信頼できない語り手」形式なのではないかと思われた方が、複数いらしたわけですね。
実際のところ、作者としては意図していなかったのですが、そう読まれ得る余白があるし、それはそれで別の面白さがあるなぁと思いました。ただ、私の書きたかった「愛」を伝えるにはむしろノイズかもしれず、これは私の力不足によるものです。今後活かしていきたい。
また、字数の関係で「僕」と画家がちゃんと交流していたシーンをバッサリ切ってしまったんですね。絵筆を洗うのを手伝うシーンとか、珈琲を「僕」にもくれるシーンとか、入れる気はあったんですがまぁ、削るならここかなぁと思い……そもそも、一般的な仲の良い交流というのをしている二人でも無いと思いますので。
いやしかし、短くともなんとかできたはずですね、反省です。
〈激重感情〉
「愛」というテーマ、本当に難しくて。書いていたら結果的に愛の話になることはあっても、これを中心に書くとはどういうものなのかと。
色々考えた結果、「愛ゆえに離れる」形は個人的に好きだな、というのと、芸術作品というのは作者と鑑賞者どちらも影響し合うものなのだということを、一度書いてみたいとも思っていました。
そして絵に限らず、音楽や、もちろん小説でも、心が飢えていなくては創ることができない、そういう感覚が私自身にもありまして。画家の男はその極例ですね。そんな彼が再び描けるように、これからも描き続けるために、共にいるよりも深く「僕」を刻みつける。これはそういう愛です。
この手紙を受け取った画家がどう思ったか、それはご想像にお任せします。ただ、再び筆を握ったのは確かです。芸術家とはそういうものだと思うので。
「僕」はどうでしょう。心の奥には永遠に画家がいて、しかしあっさり適当な相手と結婚ぐらいはするかもしれません。
本作には偽教授に「キング・ザ・100トン」との評をいただきまして、激重感情をぶつけてやったぜ!という感慨がありました。ありがとうございます。私自身が結構、湿度高めな人間なので、こういうものを書いていると筆が乗りがちだったりします。へへへ。
これからも激重感情はしっとりじっとり書き続けていきたいなぁと思います。
愛とか、声とか 灰崎千尋 @chat_gris
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