山窩
私が家業を覚えて家長を継ぐかどうかといった話し合いが行われた時分の事だった。それは、定住政策が施行された年でもあった。
あの日の邂逅は、覚えていたが心の片隅へと追いやっていた。一夜経って起きると彼は消え去り、残ったのは乱れた服とベトベトした体液にまみれた無様な小僧のみ。
つまるところ、私はカンジン様のお眼鏡にはかなわなかったのだろうと思い、日が空の中央に君臨するまで社で休み、山の麓の村へと帰って行った。
あれから十数年が経ち、年に数回、山の住人が降りてきては交流を続けてはいたが、最後まであのカンジン様に出会う事は無かった。
兵隊さんが山から降りてきた。山狩りを終えて死体を運んでは下ろしていく。御座が敷かれた死体の中に、白い入れ墨をした者がいた。
それが彼だと直ぐに思いたった。知人かもしれないから検めさせてくれ、と願い出て彼の手をそっと握った。豆は潰れ荒れた手をしていた。記憶にあった彼は、すべすべとした美しい手をしていた。
年月のせいなのか、記憶違いだったのか。
私は手を離て首を振った。何処かへ運ばれていく彼を、私は見送る事しかできなかった。
カンジン様 あきかん @Gomibako
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