九話 二日目

九話 二日目

ロドリウス・コラルド・ルミタス国王の執務室でミリアムは宰相のトーマス・マートソンと話し合いをしていた。


「皇帝陛下と国王で取り決めた密約は、国王より聞いております。宰相としても、子を持つ親としても、神子様の存在には頭を悩まされていたのです」


何事にも忖度せず常に平等に、状況と情報を見極めて国と国民の為に全てを尽くすのが宰相の仕事だ。それがトーマス・マートソンの心情だった。


しかし、2日前の断罪で国の為に命をかけて尽くしてくれた聖女を救えなかった積を感じていた。息子が断罪した1人であり、国王も許可を出していた事を知らなかったからだ。


氷の宰相の象徴ともされた切長の目の奥で光るアイスブルーの瞳からは光が消え、いつも綺麗に整えられている金髪はボサボサで、一目見ただけで疲労が垣間見れる。

そんなトーマスの姿にミリアムは同情していた。


「心中お察しします。ご子息も神子とやらに魅入られているようですね」


「全くどこで育て方を間違えたのか。あれほど常に平等であれ、甘言に惑わされるなと…」


「まだ若いですから、女人の誘惑に勝てなかったのでしょう」


「我々の立場はそれは許されません!国の為、民の為に間違えた判断をしてはならないのです!無実の聖女に呪いをかけるなど、許される事ではない!」


「それを許したのが、おたくの国の王太子では?」


「っ!その通りです。聡明だった殿下が何故あの様な…、それを止められなかったハリーも…、私も断罪の許可を国王が出していた事も知らず…。なので、責任を取り宰相を辞意するつもりです。そして、ウェスティン嬢を呪いからお救いしたいと思っております」


「貴方は信用出来そうですね」


「信頼とは?」


「貴方は魔女に惑わされずにいた様なので、信頼して私の正体を明かしましょう。その方がお互いに仕事をしやすいですしね」


「…国王はご存知なのですか?」


「この国で知っているのは貴方だけになりますね、私はジルバニア帝国ルシウス・アウロ・ジルバニア皇太子殿下の影武者です。王国から不審な手紙が届いてね、秘密の転移門で王国に来ていたんだよ。


変装してパーティーに参加したら、無実の聖女を断罪して呪う所を見ていたんだ。通信魔石で陛下に報告させてもらったよ」


「なるほど、だから皇帝陛下が全てをご存じだったのですね」


「そうです。そんな危ない魔女に殿下を会わせられないですからね、私が変わりに魔女に接近して調査する事になったのです」


「魔女だと判断したら密約を遂行すると」


「ええ、魔女には然るべき罰を受けていただきます」


――――――――――――――――――――――――

綾瀬美里はルーベンスの執務室でルシウス・アウロ・ジルバニアが来るのを今か今かと待ち侘びていた。


ミリアムから計画を聞いたトーマスは転移門の部屋に行き、ルシウスが到着したと事を伝えると、綾瀬美里は今すぐ会いたいからルーベンスの執務室に連れて来る様にと、命令されたトーマスはミリアムが言った通りの言葉を言われて、(ほう、既に神子の性格を把握していたのか)と、感心した。


ルーベンスの執務室に案内しながらミリアムに転移門での事を報告した。


「期待を裏切らない魔女だね!会った瞬間に「会いたかったわ!私がルシウスの運命の恋人よ!」とか、言ってきそうですね」


「ええ、私もそんな気がします」


「さっきも言いましたが、私に精神干渉の魔法やスキルは一切効かないので、安心して下さい」


「私が心配するのはルミタス王国だけですので」


「うむ、それでいい。だから貴方は信用出来るのですよ」


執務室に着きトーマスがノックをして入室の許可を得て扉を開けると、綾瀬美里が突進してきてトーマスを押し退けミリアムに抱き付いたのだ。


「会いたかったわルシウス!私がルシウスの運命の恋人よ!」


その言葉に、トーマスは思わず吹き出して笑いそうになってしまった。

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