五話 一日目
ラリッシュが帝国から帰還する迄の話を終える頃には昼食の時間が過ぎていた。
話終わったタイミングで執事長のジョエルが、昼食の準備が整ったと告げに来た。
三人は食堂へ行き昼食を食べ始めた。今日の昼食はヴィヴィアンの大好きなカリフラワーのビシソワーズに、トマトとモッツァレラのカプレーゼ、スパイスを効かせたラムチョップとクリームとバターをふんだんに使ったマッシュポテトである。
ヴィヴィアンが初めて食べた離乳食から、口にする食べ物や飲み物は全て俺が作っていて、お嬢様の健康な身体は俺の食事で出来ている!と、豪語している料理長のドイルが、ヴィヴィアンが呪いで落ち込んでいるだろうと、彼女の好物を揃えたのだ。
しかし、「ドイルの料理が世界一美味い!」と、喜んでいるのはラリッシュであった。
ヴィヴィアンはデザートのとろっとろのカスタードの上に、イチゴを混ぜ込んだぷわぷわのメレンゲをのせたフローティングアイランドに舌鼓を打っちながら、頬っぺたを赤らめていた。
「う〜〜!ドイルのデザートを食べるとおいし過ぎて幸せになるわね」
「ほんとな!俺もドイルの料理を毎日食べたい!」
「なら、もう一度ヴィアの婚約者になるか?」
「お父様!!」
ヴィヴィアンは敵を見るかの如く父ウィリアムを睨みつけた。
「何を言ってるの!こんな醜い姿にされて、十日後に死んでしまうなのよ!それなのに……、ラリーに……」
そう言いながら、自分の言葉に心が打ちひしがれて、ヴィヴィアンのピンク色の瞳から涙が滲んで、キラキラとピンクダイヤモンドの様に輝いた。
そんなヴィヴィアンの姿がにラリッシュは(俺が守ってやる!)と、決意をしてウィリアムの元に行くと両手と片膝を床に突いた。
「ウィリアム・ウェスティン公爵閣下、私、ラリッシュ・ドリテラはドリテラ侯爵家の名にかけて、必ずやヴィヴィアンの呪いを解呪し、国王、第一王子、綾瀬美里に復讐する事を誓います。全てを成し遂げたらヴィヴィアンを我が妻に迎えたいです」
「ダメよラリー!国王様に復讐だなんて!反逆罪で処刑されてしまうわ!
「ヴィヴィアンだからだよ、君は俺の全てなんだ、君の為なら俺はなんだってやる!」
「ラリー……」
ウィリアムはラリッシュの両肩に手を置き力強く握った。ラリッシュは肩に伝わる震えながらも強い力に必ず応えてみせると、心に誓いウィリアムを見つめた。
「ラリッシュ・ドリテラよ、その誓い、しかと受け取った。我がウェスティン公爵家の総力を思う存分使うといい!そして、ヴィヴィアン・ウェスティンの婚約者とする!」
「必ずや呪いを解きヴィヴィアンを幸せにします!」
「ちょっと!お父様も勝手に決めないで!」
何が起きても沈着冷静で動じない、冷徹で氷の様な聖女だと言われていたヴィヴィアンだが、焦った表情で声を荒げながら二人の元に駆け寄ると、ウィリアムは席から立ちヴィヴィアンを強く抱きしめた。
「俺より先にヴィアを死なせやしないからな!」
「……お父様」
ヴィヴィアンはウィリアムの胸の中で「死にたくない」「生きたい」と、生まれて初めて号泣したのだった。
その日の夕方、ヴィヴィアンは呪いで身体に異常がないか公爵家が運営する病院で検査を受ける為入院した。
一人で寂しくない様にとラリッシュから渡された通信魔石で、小さい頃の話や、一緒の部隊で魔獣討伐をした話や、一緒に遊びに行った話をして気付いたら深夜になっていた。
「父さんもヴィアとの婚約を喜んでいて、明後日の婚約式も楽しみにしていたよ」
「婚約式が明後日って早過ぎない?」
「親四人が燃えてるんだよ!母親二人のヴィアのドレス選びは特に凄かった……」
「ふふ、リズ様とお母様の鬼気迫る姿が目に浮かぶわね」
「デザイナーと針子さん達が可哀想だったよ!」
「なんだか、明後日が楽しみだわ」
「ああ、だな!今日はもう遅いからヴィアは寝な、明日の検査結果が出る午後には病院に行くからな」
「ありがとう、ラリーも早く寝てね」
「ああ、おやすみヴィア、俺はヴィアを変わらず愛してるよ」
「……ありがとう、おやすみなさいラリー」
両手の掌に乗せている通信魔石に流している魔力を消すと、ヴィヴィアンは「はあ」と、溜息を吐いた。
「ラリーは変わらず愛してるって言ってくれたけれど、こんなにも醜い姿だから、いつかは……、」
そう思うと、胸が締め付けられて涙が溢れてくる。ヴィヴィアンは自分もラリッシュを愛してるのに、言ってはいけない気がしていた。
もし、この醜い姿がやっぱり気持ち悪いと、結婚したくないから呪いを解呪したくないと、そう考えてしまい、ラリッシュに愛してると伝えて拒絶されたら生きてはいけないと考えてしまうのだった。
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