四話 一日目


勢いよく扉を開けて部屋に入って来た白と黒の魔法師の正装を身に纏ったラリッシュ・ドリテラは、マントをはためかせながらヴィヴィアンの元に駆け寄り両手を取り膝まづいた。


「ラリー、何故ここにいるの?ジルバニア帝国にいるはずでは?」


「昨日のヴィヴィアンの事を聞いて急いで戻って来たんだ」


「昨日のって……、ジルバニア帝国からは早馬でも三日はかかるはずよ。まさか、転移魔法を使ったの?」


「使ったのは俺じゃない。昨日の事は帝国でも問題になっているんだ。しかも、王命で皇帝陛下に渡した手紙にも問題があったんだ。それで、帝国の要人達と王城につながるいる転移門で王国に帰って来たんだ」


ラリッシュは何故ジルバニア帝国に手紙を届けに行く事になったのか、そして、ジルバニア帝国での事をヴィヴィアンとウィリアムに話したのだった。


四日前にロドリウス国王に呼ばれて国王の執務室に行くと、そこには何故かルーベンス第一王子と神の預言者と言われている綾瀬美里がソファーに並んで座りながら、テーブルに所狭しと並んでいスイーツを食べながら紅茶を飲んでいた。


国王の従者から王家の印璽いんじを押された封蝋で閉じられた手紙を差し出され、ラリッシュ一人でジルバニア帝国へ行き手紙を皇帝陛下に届けろと言われた。


魔法師団の自分が届けるのはおかしいと抗議したら「王命だ」と言われてしまった。そして、綾瀬美里はソファーから立ち上がりラリッシュの元に来ると、ラリッシュの両手を握りしめて黒い瞳に涙を溜めながら言った。


「ヴィヴィアン様の為だと神のお告げがあったのです」


その時に気持ち悪い嫌な気を感じて両手を振り解き、従者から手紙を受け取り一礼して執務室から慌てて退室した。

ヴィヴィアンに会いたい、纏わりつく気持ち悪い気を払い除けて欲しいと、早馬に乗り公爵家のヴィヴィアンの部屋へ向かった。


聖女であるヴィヴィアンに王命でジルバニア帝国に行くので旅の安全の祈祷をしてもらうと、纏わりついていた気持ち悪い気が消え去り、暖かい空気に包まれて心が落ち着いていった。


出発して三日目の昼に帝国に着き、皇城でアウレリウス・ヘウロ・ジルバニア皇帝陛下と謁見し手紙を渡した。皇帝は手紙を一目すると「ルミタス国王は帝国を侮辱しているのか」と憤怒し、ラリッシュは捕らえられそうになり、手紙の内容を教えて欲しい、皇帝陛下の力になれるはずと懇願した。


手紙には『ジルバニア帝国皇太子ルシウス・アウロ・ジルバニアと神の預言者 綾瀬美里は運命の恋人で、ルミタス王国に来ることが帝国と属国の全ての民の為でもあると神の預言があり、この手紙が届き次第、転移門を使いルシウス王太子はルミタス王国に来られたし』と書いてあった。


ラリッシュは綾瀬美里は突然現れた異世界人でルーベンス第一王子の恋人で、騎士団団長と宰相の息子も彼女を慕っていると伝えた。そして、怪しげな術を使っている気配があるので皇太子が行くのは危険だと意見した。

 

皇帝は皇太子の影武者であり妾の子であるミリアムに通信魔石を渡し、護衛の近衛兵二人を転移門でルミタス王国に飛ばした。


そして、その日の夜に通信魔石でミリアムから、ヴィヴィアンの断罪があったと知らせがきた。


皇帝は聖女であるヴィヴィアンに呪いをかけた事に抗議文を書き、ユリシーズ・リル・ジルバニア第二皇子に持たせ、宰相補佐のキリア・ニルバレット伯爵令嬢と魔法騎士のトレバス・リドバニア公爵を転移門でルミタス王国へ行く命を出した。


ラリッシュはユリシーズ達と共に転移門でルミタス王国の王城に帰ってきてたのだ。そして、すぐさまヴィヴィアンの元に駆けつけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る