三話 一日目


「そんな……、俺のヴィアが……」


少し長めの炎のような赤毛を振乱し、深紅の瞳から涙を流しながらウィリアムは鏡台に座るヴィヴィアンに駆け寄り抱きしめた。ヴィヴィアンは長身たけども痩せているウィリアムの背中を、子供をあやす様に両手さすった。


ーヴィアなんて久し振りに呼ばれたわ、魔法師団に入ってからは呼んでくれなかったのよね。なんだか嬉しいわー


「泣か、な、いで、おとう、さま、あの、ま、ま、投獄さ、れなかっ、たのは、幸運で、したわ」


「俺のヴィアを投獄なんてしたら、城ごと奴等を吹き飛ばしてやったわ!」

 

「ふふ、おとう、さま、ったら!」


「俺の可愛いヴィアにこんな事をするなんて、許さない!」


ウィリアムは一人娘であるヴィヴィアンの事を溺愛していた。愛してやまない妻と瓜二つの外見に、公爵家に代々受け継がれる膨大な魔力量を受け継ぎ、ウィリアムと同じく多重属性のヴィヴィアンを宝物の様に大事に育ててきたのだ。


本当はルーベンスとの婚約には反対だったが王命には逆らえず、公爵家の後継者として育ててきたヴィヴィアンの婚約者との婚約を解消させられて、ルーベンス第一王子の婚約者にされたのだった。


それなのに冤罪で罪に問われ呪いをかけられた事に激怒していた。魔法師団の部下達は「闇堕ちして魔王になってしまうのでは」と心配する程だった。


ヴィヴィアンもそんな父親を愛していて、今も自分の為に怒っているのを嬉しく思った。そして、今の状況を冷静に判断する事が出来た。


ー呪いなら聖魔法の解呪でとけるのでは?解呪出来なくても口だけはどうにかしたいわね。喋りにくくて困りますー 


「おと、さま、解呪、かけて、みます、ので、離れ、て、くださ、い」


「ああ、分かった」


ウィリアムはヴィヴィアンから離れるとメイドと従者達を部屋から出した。

ヴィヴィアンは胸の前で手を組み「ディスエンチャント」と、心の中で詠唱すると、白い光に身体が包まれた。光が消えて鏡を見ると、醜い姿が映っていた。


ーう〜ん、解呪は効かないのね。でも、少しだけど頬と口の形は良くなったかしら?ー


「あー、あー、口はスムーズに動くようになったわね」


「しかし、ヴィアの解呪でも呪いが消えないとは…」


「そうですね、この呪いの正体を調べなければなりませんね」


「あの女の後にいたローブ野郎を捕まえるか」


「捕まえて素直に吐いてくれれば良いですが、あと9日でどうにか解呪と、冤罪を証明しなければなりませんね」


「アイツは俺が必ず捕まえるから任せろ!」


「ありがとうございます、お父様。しかし、お母様にはなんて説明しましょうか?」


「……俺が説明しておくよ。暴走させない自身はないが……」


「……魔塔が無事な事を祈りますわ」


二人が話していると、ドカドカと廊下を走る音が聞こえると「バン!!」と、勢いよく扉が開いた。


「ヴィア!!無事か!?」


「ラリー!!」


そこには、少し癖のある金髪にルビーの様な明るい赤い瞳をした美丈夫が青白い顔をして立っていた。



      

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