一話


なぜわたくしがこんな目にあっているのでしょうか?


ヴィヴィアン・ウェスティンはそう思っていた。

一か月にわたった巨大ダンジョン討伐から無事帰還して、騎士団団長と魔法師団団長と共に国王に討伐報告しに王城へ到着したら、近衛騎士団に捕らえられてしまったのだ。


手には魔力封じの手枷をはめられて、両腕を近衛騎士団に引っ張られながら連れて行かれた。

父であるウィリアム・ウェスティン魔法師団団長が「どういう事だ!」「説明しろ!」と、抗議しても「王命だ!」と、近衛騎士団が言った。


ー国王様はなぜわたくしを捕らえろなんて王命を出したのか……ー


ヴィヴィアンは引きづられながらも考えていた。


ー犯罪になる事はしてないはず。それに、ここ半年はダンジョンやら魔の森やらで討伐しかしていないもの。

とりあえず、国王様から罪状を言われるまで大人しくしてましょうー


謁見の間に着くと王族の証である黄金の様な金髪に、エメラルドの瞳と言われる深い緑の宝石眼を持つ美丈夫なロドリウス・コラルド・ルミタス国王と、ふわふわのピンク色の長い髪にパールを散りばめ、薄い紫色の瞳を潤ませながら悲しげな目をしているマリア・リコリス・ルミタス王妃が玉座に座っている。


その下には国王に似てはいるがまだ幼い顔で線の細いルーベンス第一王子と、黒髪に黒い瞳の少女がルーベンスに肩を抱かれて立ったいた。


二人の後ろには三人の男が並んでいた。真っ赤な短髪に長身で体格の良い淡い水色の瞳が特徴の、カーマイン・ハーマン第一討伐隊騎士団団長の息子アーノルド・ハーマン伯爵令息と、少し癖のある緑色の髪に濃いオレンジ色の、ホアキン・ビルバレット宰相の息子ミハイル・ビルバレット公爵子息がルーベンスの後ろに並んでいる。


もう一人が真っ黒のローブに身を包み、フードで顔を覆い隠している不気味な大きな男が綾瀬美里の後ろに立っていた。


「ヴィヴィアン・ウェスティン!何故捕らえられたか分かっているだろうな!」


声を荒げて叫んだルーベンスの声は謁見の間に響き渡った。ヴィヴィアンは煩いっと、顔を顰めながらルーベンスを見た。


「はっ!相変わらず人を見下す顔をしているな!貴様が神の予言者の美里にした仕打ちを俺が知らないと思ったか!」


神の予言者の美里は、半年前に神殿に突如現れた、異世界から来た綾瀬美里だ。

過去と未来を神が教えてくれてるというのだ。


しかし、ヴィヴィアンは美里とは一度顔を合わせただけで、話もした事がないのだ。


わたくしはこの半年の間、討伐部隊として魔獣やダンジョンの討伐に出向いていました。一度顔を合わせたたげの綾瀬様にどんな仕打ちをしたのでしょうか?」


「…ヴィヴィアン様、正直に話して下さい。私の悪い噂を広めたり、脅迫状を送ってきましたよね?」


「悪い噂とはどの様な噂でしょうか?それと、脅迫状にはどの様な事が書かれていたのでしょうか?」


「貴様!美里を蔑む噂や殺害予告の手紙を送っただろうが!」


ーなんでしょうか?全く身に覚えが無いのですが。何故この方々はわたくしが犯人だと決めつけているのでしょうか?ー


ヴィヴィアンは困惑しながらも表情に出さずに涼しい顔をしている。その姿にルーベンスは苛立ちを募らせていた。


「それ以外にも、他の令嬢に頼んで私に酷い事を言わせたり、ルーベンスが私に贈ってくれたドレスを破いたりしたでしょ?」


わたくしにはそんな事をしている暇などありませんでしたわ」


「そんな事だなんてひどい!私すっごく辛かったんですよ!それに、野蛮な人達を雇って私を襲わせようとしたでしょ!ルーベンス達がいなかったら…、私…」


「泣くな、美里」


しくしくと泣く美里と抱きしめるルーベンスを見てヴィヴィアンは呆れていた。

 

ー淑女が人前で泣いてはいけませんよ?殿下も婚約者でもない女性を公の場で抱きしめてはいけません。

まったく、なぜわたくしがこんな目にあっているのかしら?ー


ヴィヴィアンは討伐からやっと帰って来て疲れてるのにと思いながらため息をついた。


「まったく身に覚えがないのですが、わたくしがやったという証拠はあるのでしょうか?」


「証拠だと?美里が神の声を聞いたんだ!令嬢達も貴様に命令されたと証言している!」


「物的証拠は無いのですね?」


「はっ!そんな物は神の声に必要ない!それに未来の予言も美里に啓示してくれたんだ!」


「そうです!嫉妬に狂ったヴィヴィアン様は私を殺して世界を呪うと神は予言されました!」


「……わたくしはまぜ美里様に嫉妬するのでしょうか?」


「俺に愛される美里に嫉妬しているのは分かっているんだよ!貴様はこの状況でも可愛げないな、だから冷徹って言われるんだよ!」


ーこの人達は何を喋っているのでしょうか?わたくしが殿下事を好きだと思っているのかしら?どちらかと言えば嫌いなのですが?ー


ヴィヴィアンはこの状況をどうにかしなければと考えていると、国王が「ルーベンス落ち着け」と言った。


「聖女ヴィヴィアンよ、神の予言者への行いは万死に値する。しかし、簡単には死なせはせん!呪いで苦しみながら死んでいくとい!」


国王が言い終わると、美里の後ろに立っていたローブ姿の男はヴィヴィアンの前に来ると、呪文を唱えながらヴィヴィアンのアゴを掴み口を広げると、手のひらに浮かぶ黒い煙を口の中に押し込んだ。


ヴィヴィアンは心臓が握り潰される様な苦しさと、全身に走る激痛に叫びながら倒れ込んだ。


男はヴィヴィアンから手を離し美里の後ろへ戻っていった。


そんなヴィヴィアンの姿を見ながらルーベンスは大笑いした。


「ははは!無様だな!貴様は醜い姿になり苦しみながら十日後に四肢がバラバラになり死ぬ!散々美里を虐げた罰だ!」


ヴィヴィアンは激痛に苦しみながら意識が遠のいていった。


翌朝メイドの悲鳴で目覚めると化物の様な顔になっていた。

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