第4話 Finish

 さっきまで出ていた夕日は、その身を何処かに隠し、辺りを真っ暗な闇に染めた。

 そして、グラウンドから聞こえていた生徒の声も、いつしか聞こえなくなっていた。


「もう、すっかり辺りが暗くなっちゃったね」


 暗くなり行く外を見つめながら、日菜は独り言の様にボソッと呟いた。


「本当だ、いつの間に……」


 瑞稀も日菜と同じ様に、外を眺めながら言葉を漏らした。

 暫くの間、二人とも何も言わず、更に暗くなる外の世界を教室から眺めていた。

 隣で寝ている男の子の寝息を聴きながら……。




「瑞稀ちゃん、今日はごめんね」

「えっ……!」


 日菜は何の前触れもなく、瑞稀に謝った。

 そんな日菜の言葉に、瑞稀は顔を日菜の方に向け、二の句が継げない状態になった。


「ど、どうしたんだよ、日菜」


 頭の中で全く整理がついていなかったが、瑞稀は取り敢えずどうして謝ったのか訊いた。


「だって瑞稀ちゃん、こういう事するの苦手でしょ?

 嫌な思いさせちゃったなって……」


 日菜の目線は徐々に下を向き始め、声は次第に暗くなっていった。


「本当はね、ちょっと後悔してるの。

 これで瑞稀ちゃんに嫌われたらどうしようって。

 ……でも、それ以上に瑞稀ちゃんがこの子の事をどれ位好きなのか知りたかったの。

 私がこの子の事をどれだけ好きか知って欲しかったの」


 日菜の声は暗くなる一方であったが、大きさは少し大きくなった。

 色々と思う事があったのだ。


「……試す様な事をしちゃって、ごめんね。瑞稀ちゃん……」


 最後に一言、日菜は瑞稀に向かって、もう一度謝った。

 突然の話に一度は驚いた瑞稀であった。


 しかし、今の日菜の話を聞いて納得した部分もあった。

 何故、日菜がこのゲームを提案したのか。

 それは瑞稀自身にも非があったからである。

 もっと、男の子に対してどれだけ好きなのか示していれば……。


「そっか、だからこんなゲームを始めたのか」


 瑞稀は小さな声で、自分に言い聞かせる様に呟いた。

 そして、今度は日菜に向かって話した。


「日菜、顔を上げて」


 瑞稀は優しく、静かに日菜を呼んだ。

 その声はわざと優しく言っている感じは無く、ごく自然な言い方であった。

 そんな瑞稀の言葉に従い、日菜は自らの顔を上げた。

 瑞稀の顔を見てみると、怒っている様子は一切無く、口角を少し上げて微笑んでいた。


「今日の日菜が提案してくれたゲーム、やって良かったって思ってるんだ」

「えっ……!」


 それは日菜にとっては驚くべき話であった。

 あの勝気で恥ずかしい事が苦手な瑞稀が……。

 日菜は訊かずにはいられなかった。


「ど、どうして?」

「だって、ウチが思ってた以上に、こいつの事が好きだって事に気が付いたんだから」


 瑞稀は日菜に向かって、ニッと笑った。

 それは今日一番の満面の笑みであった。

 そんな瑞稀の笑顔を見た瞬間、日菜はこのゲームに思っていた少しの後悔が、完全に跡形もなく消え去った。


「そっか…それならやって良かった!」


 日菜も瑞稀の笑顔を見て、今日一番の笑顔を瑞稀に向けた。




 キーンコーンカーンコーン!




 学校中にチャイムが鳴り響いた。

 それは最終下校時刻と共に、このゲームの終わりを示していた。


「うわっ、もう帰らないと!」

「そ、そうだね!」


 瑞稀と日菜は自分たちの荷物を持ち上げ、自分達が座っていた椅子を直した。

 そして、同時に男の子を見た。

 あんなに大きなチャイムが鳴ったというのに、まだ気持ちよく寝ている男の子。


「まったく……どんだけ寝てるんだよ」

「フフッ、こんな所も可愛いよね」

「……そうだな」


 そんな事を言いながら、二人は自然とお互いの顔を見合った。

 そして、何かが通じ合ったのか、二人して首を縦に振った。

 そして、瑞稀は男の子の左耳に、日菜は右耳に近づいた。




「「ほら、起きて。一緒に帰ろう!」」

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眠り王子と秘密のゲーム 齋藤 リョウスケ @RyosukeSaito

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