天気権
結騎 了
#365日ショートショート 240
クラスで一番可愛い姫川さんが、僕の机の前に立った。
「今日はあのお金、持ってきた? あと君だけなんだけど」
目を伏せ、首を横に振る。姫川さんの怪訝な顔は見なくても分かる。その後ろで、一軍のクラスメートたちが僕に小声で難癖を飛ばしていることも。
「今度の球技大会、みんなでいい思い出にしたいの。だから、雨が降ったら困るのよ。ねえ、どうして協力してくれないの?」
なんと無邪気な悪意だろう。さすが、一軍のお姫様だ。
天気のメカニズムが完全に解明され数十年。科学は進歩を重ね、局地的な天候のコントロールが可能になった。天力自由化をきっかけに、民間の天力会社が多数参入。天気権は、今や一般人でも簡単に買える商品だ。
「クラス全員でお金を出し合って、球技大会を晴れにしたいの。ねえ、分かる? みんなで出し合うから意味があるんだよ? 自分だけお金を出さないなんて、どうしてそんな変なことするの?」
運動が苦手で、なおかつクラスに友達すらいない僕にとって、球技大会など悪夢に他ならない。そんな行事は雨で中止になってもらうに限る。このままいけば、当日の予報は降水確率80%だ。それを受け、一軍様の発案で天気権を買うことになったが、誰が協力してやるものか。わざわざお金を出して球技大会をやるなんて、僕にとっては損しかない。
指をぎゅっと握り締め、吐露した。
「これ以上、僕にお金を催促するのなら……。貯金をはたいて、僕が個人で当日の天気権を買うよ。もちろん雨の天気権だ。それでも構わないなら、このまま続けてくれ」
姫川さんは、おそらく泣いていた。目に涙を浮かべて、一軍の元へ戻って行った。せいぜい慰めてもらえばいいさ。自分たちの悪意に気づけない奴らと話すことなんかない。
ついに言ってやった僕の顔は、おそらく晴れていただろう。ピーカンだ。
天気権 結騎 了 @slinky_dog_s11
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