10 なぜそれを知っているのか?


 オベリスクとの闘いもそろそろパターンが決まってきて


(消化試合かな?)


 と思っていた時だった。


 同じようにレイラを投げ、同じような衝撃波が走るも「ガキーン」という固いものにぶつかったような効果音が空に響いた。そして、今までのようにオベリスクがのけぞらなくなったのだ。


「あれ? 失敗した?」


 ブラック・オベリスクはゲームのマップ端にある見えない壁に阻まれるがごとく、湾岸に張り付くのだった。


 戻ってきたレイラも首を傾げる。


「感触が急になくなった気がする…」


 そういう、二人の不安感に対して、大勝おおがち司令官が気づく。


「何か問題でもあったのか?」


 長く国防軍に勤める大勝は、こういう細かい異常に対して敏感であった。異常とはつまるところ作戦崩壊の兆しでもあるのだから。


「えぇ、攻撃の感触が急になくなったそうで」


 夢幻はかくかくしかじか状況を伝えようとした。しかし、大勝は不思議そうな顔をした。


「夢幻少年は攻撃しないのかい?」


「いや、僕が攻撃したらまずいんですよ」


「どうしてだい?」


 これは、ブラック・オベリスクの特性が関係する。受け取ったエネルギーを吸収して一定値に溜まると反撃してくる設定になっている。無限をベースにした夢幻の攻撃とは相性が悪い設定なのだ。


 何せ、溢れんばかりのエネルギーをブラック・オベリスクに吸収されたら、同じ威力で反撃されて町を吹き飛ばしてしまう。


 それを防ぎたいからこそ、ゼロをベースとするレイラが攻撃担当になっているのだ。


 だから、夢幻はその通り大勝おおがち司令官に説明する。


「僕の技を使うとやつに吸収されて反撃を受けるからですよ」


 しかし、大勝司令官は小首を傾げた。


(何かわからないところあったかな?)


 小心者の夢幻は些細なことを気にするのだった。しかし、司令官が気にしていたのはそんなことではなかった。


「君たちはどうしてやつにそんな能力があると知っているんだい?」


(やってしまった…)


 夢幻はあせった。あのブラック・オベリスクは夢幻たちが作り出した屍神しにがみだとバレたかもしれないと思った。敵の詳細性能を知っている人間なんて、創作した自分たちであると言っているようなものである。


 汗だくになる夢幻。のみほどのサイズしかない夢幻の心臓が、無限の緊張を受けてドクンドクンと鳴った。もし、あれが自分たちの作ったものだとばれたら、これまで壊したものを弁償しないといけない。


(ミサイル1発いくらだろうか? すっごく高いって聞いたなぁ)


 夢幻の脳は莫大なプレッシャーで埋め尽くされる。そして、何年分のお小遣いを前借まえがりすればいいか一所懸命に計算を行うのだった。


「あっ、それ私たちの能力ですよ」


 しかし、レイラはけろっとうそをついた。


「それは、どんな能力だい?」


「敵の能力と倒し方が見えるんですよ。一種の未来予知です」


 嘘がばれればこれはきっと大犯罪である。ネットでつるし上げられるなんてレベルじゃすまないはず。しかし、汗だくで動揺する夢幻の横で、レイラは一切の動揺を見せず、平常心で嘘をつく。


「それはすごい能力だな!」


「そうですよ、私たち神の力もらったんで。それくらいできますよ~」


 ゼロを扱うレイラはある意味、少年には想像もつかないほど大きな国家という単位と渡り合っているのだ。頼もしい反面、女の子って怖いなとも思った。


「あぁ、邪魔して悪かった。戦いを続けてくれ」


(乗り切ったのか?)


 額から無限に湧き出る汗を拭って気を取り直す夢幻。深呼吸をして、もう一度レイラを投げて、同じ攻撃をする。


 しかし、戦況は変わっていなかった。


「やっぱり効いてないよね?」


 ******


 首相官邸、未確認海洋物体対策本部


「さっきから攻撃効いていないような…」


 総理がつぶやく。


「予算削るとか言うからじゃないですか?」


「それなら、新事研しんじけんじゃなくて国防費削ろうか?」


「失礼いたしました。現場には大勝司令官が直接出向いておりますのでご容赦ください」


 ******


 江戸川区、某交戦区域


「で、なぜか敵があそこより後ろに後退しないと?」


 夢幻とレイラ、それに、大勝司令官と新事研の三佳みよしが公園の砂場にしゃがみこんで相談していた。


「まぁ、落ち着き給え君たち!」


 なぜか、統合司令官より偉そうにする二尉の三佳である。ここでは三佳が作戦の段取りを整理する。


 三佳「まず、この海岸線のラインまでは敵を後退させることができるんだよね?」


 レイラ「はい、そこまではズズズって感触があってちゃんと攻撃が利いてます」


 三佳「だけど、そこから先は?」


 レイラ「ガキーンって見えない壁にぶつかったみたいな感触があります」


 三佳「うーん、何か引っかかってるのかな?」


 大勝「なら、展開中の部隊に地ならしさせようか?」


 しかし、三佳はちらりと夢幻を見る。


 三佳「せっかくだし君の能力も使って見たら?」


 夢幻「いや、それはちょっと…」


 と、急に話を振られてこわばる夢幻。ただでさえプレッシャーに弱いのに、想定外の事態が起こり、さらに偉い人の前で、東京の運命を背負ったこの作戦会議に参加させられ、夢幻は狼狽うろたえるしかなかったのだ。


 そんな夢幻を見て、レイラは神技を使ったふりをする。


「あぁ、未来が見えます。どうやら、夢幻が技を使うと敵の反撃で私たちの学校が蒸発じょうはつしてしまうみたいです~」


 この先の展開をレイラが語る。確かに二人で決めたシナリオではそういうことになっていた。夢幻が技を放つとブラック・オベリスクはそれを吸収し、そのままビームを撃ち返してくる。そしたら中学校が蒸発してしまうのである。


(実際、そんなことしたくないよね~)


 だから、二人はそうしないのであった。


 ただ、レイラは夢幻に耳打ちする。


「でもさ。やっぱ設定したことは実行しないとダメなんじゃない?」


 その、レイラの言うことはもっともだった。謎の装置で神託しんたくを受けないと技が使えなかったように、やはり自分たちで書いたとおりのシナリオにしないと次のステップに行かないのではないか?


「ちょっと、やってみよう?」


 レイラが無理やり夢幻の背中を押すのであった。


「いやいや、ダメな未来が見えているのトライする理由は?」


 しかし、夢幻のミニマムな心臓は相変わらずの消極姿勢だった。


「一発くらい大丈夫よ!」


「大丈夫じゃないって!」


 だから、夢幻は元の場所にしゃがむのだった。そんな、優柔不断な夢幻に対してレイラが怒る。


「ちょっと、このままでは勝てないでしょ! 犠牲を顧みずトライするの!」


「そもそも、反撃される未来が見えるってレイラが言ったことだよね?」


 そう指摘され黙るレイラ。しかし、もう一度指で作ったわっかをのぞき込み能力を使ったふりをする。


「あ、もっと強いパワーで夢幻がビームを出すとあいつはエネルギーを貯め切れなくなって蒸発するみたいですよ!」


 これも実はそのとおりであり、ブラック・オベリスクの倒し方であった。だからこそ夢幻は一旦沖合おきあいまでブラック・オベリスクを後退させて、被害が出にくい海上で決戦に挑みたかったのだ。


「だけどなぁ…」


 そんな、二人のコントを大勝司令官が黙って見ていた。司令は、レイラたちの語る様々な矛盾に気づいていた。まず、夢幻の挙動不審な様子を見て隠し事しているとすぐに分かったし、技名や設定にこだわっているレイラが未来予知するときには何の詠唱もしない。さらに、状況に応じて逐次出てくる都合の良い情報。


「もしかして君たち…」


 と、途中まで声が出た。夢幻は額から無限の汗を流し、レイラはいつになくキツイ視線で司令官を見る。一気に高まる緊張感。大勝はやはり何か隠していると確信するのだった。


 しかし、大勝は我慢することにした。というのも、有効打を与えられたのはこの二人の少年少女だけ。今は彼らのことを信じるべきではないだろうか?


「わかった、君たちを信じてみよう。好きなようにやってみるがいい」


「ありがとうございます!」


 そう言われ、レイラは夢幻を抱えて一目散にどこかへ飛び去ってしまう。


「私たちが必ず何とかしますから!」


 ひとまず、二人の秘密は守られたのである。

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ラスボスはいつも幼馴染の君になる! 遥海 策人(はるみ さくと) @harumi_sakuto

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