第8話:エピローグ

・エピローグ


 「以上で、昔話は終わりです」


 豊かな木々に囲まれた小さな建物の庭で、子供たちに昔話を聞かせていました。


 彼と出会った大事な場所に建てた孤児院。そこで、子供たちに囲まれて昔話をせがまれてしまったのです。


 「せんせ!魔族って悪いやつだったんじゃないの?」


 男の子から純粋な疑問の眼差しで問いかけられます。


 「いいえ、それは違います。魔族だから悪いわけではありません。人にもいい人と嫌な人が居るように、魔族も同じです。みんなが悪いと決めつけて、仲良くしようとしないのは勿体ないですよ」


 「へー」


 納得しきれていないような、曖昧な返事ですが、優しい子なので分かってくれるでしょう。


 「先生!」


 今度は、女の子から声をかけられます。


 「はい、何でしょうか」


 「先生は、その不愛想な魔族さんのことが好きだったの?」


 まさかの質問をされてしまいました。


 「さあ、どうでしょうか」


 それは、分かりませんね。特に今となっては…。


 「一緒に居て楽しかったんじゃないの?」


 「どうでしょうか。私たちは、あまりそう言った感情を理解できないことがあるので」


 自分で言葉にして、少し悲しくなりました。感情をもっと理解することが出来れば、彼のことももっと理解することが出来たのでしょうか。


 「でも…そうですね。随分前の事ですので、データの欠落などもあると思いますが、彼のことを思い出すたびに、自然と口が綻ぶのです。その時の私が楽しそうにしているので…。きっと、幸せだったのでしょう…」


 細かな記憶は、幾度のデータの引継ぎでノイズがかっている部分もあり、すでに鮮明ではないけれども、そのことだけは確かに…確かに覚えているのです。


 「じゃあ、絶対好きだったんだよ!だって、私もたーくんと一緒に居ると幸せだもん!」


 「はぁ!?おま、何言って…!」


 たーくんと呼ばれた男の子は、顔を真っ赤にしてワタワタとしています。


 「そうだったのならいいですね…」


 今では、分からなくなってしまいましたが、この今でも胸に残る暖かさはきっと……。


 昔の思い出に浸っていると、気持ちの良い風がブワっと吹きました。


 私の腰まである髪がフワッと浮かび、サラサラと元に落ちていきます。


 彼も静かな場所で風を感じるのが好きでしたね…。もしかしたら、どこかでゆっくりしているかもしれません。


 

 不愛想だけど照れ屋だった、あなた


 相手を見た目や種族で判別しなかった、あなた

 

 私に生きる目的をくれた、あなた


 

 あなたは私を好いていてくれてたのでしょうか?


 あなたは私と居て楽しかったのでしょうか?


 あなたは私と出会えて幸せだったのでしょうか?

 


 私の様な体も心も冷たい役立たずの機械が、少しでもあなたの心を暖めれていたら……


 

 そう、物思いに耽っていると、背後の森から足音が聞こえてきます。


 私の記憶の中に残っています。


 聞きなれた足音。


 ああ、やっぱり貴方は…


 












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

独りぼっちだった魔族と機械の物語 しーな @sayu417

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ