第33話 見えない目的
「……守る為?どういう事?」
「それは……違うっ。何でもないよ……」
アヤカは口にしてしまった言葉を焦って訂正しようとしていた。
「どういう事か話してくれないか?」
前にも似たような事があった気がする。どうして、その時解決できなかったのだろう。アヤカの目には光はなかった。
「……もしこの先、何があったとしても……私に騙されたフリをしてくれるなら話す。……じゃないと皆、マリアと同じ目にあってしまうかもしれない」
ポツリポツリと言葉を選びながらゆっくりと話し出す。アヤカは唾をゴクリと飲み込んだ。
「……わかった」
「わかりました」
「……事件が起きる前、その時はまだアツシくんとショウくんに出会う前だったし、前にも話したけど劣等感に押しつぶされそうでマリアを蹴落としたいって言う気持ちがあった。……そんな時に先生声を掛けてもらったの」
「先生?」
「……そう。ヤマダ……先生。絶対にアヤカを一番の人気者にしてあげるからって言われて。……私は先生の情報に関して、アツシくんとショウくんに嘘をついていた。本当は先生はマリアをいじめている事に気がついていた。そして、いじめを見て見ぬふりをしていた。むしろ、いじめを見て楽しんでいたの。そして、先生はSNSの界隈の事も何でも知っていた」
ヤマダ先生の噂は本当だったと言う事か。
生徒やその家族の過去や趣味、それこそSNSを調べ上げ、夜な夜なニヤニヤ笑っているというのは事実だったようだ。
そして、真犯人もヤマダ先生と言う事だろうか。
ショウが怪しんでいた通りだった。もっと早くに調べるべきだった人物だ。
「初めは驚いた。何で私の裏垢も知っているんだろうって怖かった。でも、半信半疑だったけど先生の言う通りに写真を載せれば不思議とフォロワー達の反応はよかった。でも私はやっぱりマリアを追い越す事が出来なくて、苦しかった。
先生がある日言ったの。
『マリアを消してアゲル』って。
だから、協力してほしいって。あの日、マリアの事件が起きる数時間前先生に言われた事を実行しようとした。でも私のミスでコンピュータ室の鍵をもらっていなかったの。そこで鍵をもらいに職員室に行った時、丁度ヤマダ先生がいなくて、他の先生に鍵と使用許可をもらった。それが最大の汚点だったかな。そしてバレないように、先生に指示されたように、トモキにメールを送った。
絶対にバレないと思っていた。
私は言われた事をしただけだったからメールに添付したURLの動画がマリアの殺人動画だって知らなかった。
その後、SNSを開いてゾッとした。私は何て事をしたんだろう。マリアはどうなったのだろうって。急いでマリアに連絡してみたけどやっぱり返信は来なかった。
先生にも連絡した。
先生は『何も心配する事はありません。言う通りにしてください。私との事は誰にも話してはいけません。もしも、話したらマリアと同じ様な事が君にも起きるでしょう』
って笑いながら言ってた。
だからあの時、アツシくんに助けを求めた。アツシくんがマリアのファンアカウントのアッくんだって先生から教えてもらっていたし、アツシくんなら絶対マリアを助けてくれるって思ったから。
……私は何も知らないふりをしてアツシくんに近づいた。何食わぬ顔で。
アツシくんが先生の事を気にしていて怖かった。犯人だってバレてしまうんじゃないかって。私は隠すのに必死だった。先生が生徒に全く興味がないかのように話した。……あそこでショウくんが来たのは想定外だった」
「あの時もう嘘はつかないって言ったじゃないか……」
「……アツシくんとショウくんに出会って先生の言う事を聞くのはやめようと思ったの!だからあの日、皆で屋上で話したあの後、私は一人で反省してた。これからどうするべきか、どうやって手を引くべきか考えてた。雨が降ってきて帰ろうと思ったら、そこに先生が来たの。考えがまとまらなかったから私が思っている事をそのまま真っ直ぐに伝えた。
『私はSNSで一番にならなくていい。だからマリアを返して』
もう先生に協力は出来ないって。そしたら笑われた。お腹を抱えて涙を拭っちゃうくらいに笑っていた。最初から私を一番にする気なんてなかったみたい。
最初から利用するためだけに近づいたんだって。私が馬鹿に見えたから。欲望のままにマリアをいじめていたから。単純にみえたから。使えると思ったんだって。
先生に協力する事を辞めたら、アツシくんとショウくんをマリアと同じ目に合わせるって言われた。でもこのまま協力を続ければ二人の事と、マリアは守ってやるって。私はアツシくんとショウくんとマリアを守る為に協力する事を選んだ……タナベさんがいろいろ調べていた事は知らなかったし、先生も想定外だったと思う。ここでバレてしまうなんて……。マリアをもうすぐ解放してもらえる約束だったの……」
アヤカは目に涙を溜めていた。今にもこぼれ落ちそうだ。
「……協力って具体的に何をしていたのですか?……僕の推測だと僕達の動きを全部先生に報告していた事と、アツシくんがクラスの皆にいきなり犯人扱いされたのもアヤカの仕業だと思っているのですが」
「……そうなのか?アヤカがやったのか?」
「……そうだよ。私がやった……」
溢れ出した涙が頬を流れて落ちていく。
「アツシくんとショウくんが調べた事を全部先生に話したし、ショウくんがフライだって先生から聞いて、トシカズにその事を教えたのも私。アツシくんが孤立する様に仕向けられて、サトウくんの机に手紙を入れたのも私。早朝に学校に来て、皆に見つからないように入れた。そしてその後、何事もなかったかのようにアツシくんに話しかけに行った」
だからショウがフライだと打ち明けた時、アヤカはあまり驚いていなかったのか。最初から知っていたから。
「……ごめんなさいっ……ごめん……なさい……でもこうしなきゃ、先生が何をするか分からない!……こんな私の事なんて……皆嫌いだよね……?」
沈黙があった。俺達は俯いていた。アヤカのすすり泣く音だけが響いている。俺達が必死に頑張ってきた事は、犯人に筒抜けで、犯人の掌の上で踊らされていただけで、意味のなかったものだったのかもしれない。
ショウがスッとアヤカにハンカチを渡していた。
アヤカの事を全く気づけなかった自分も悔しかった。アヤカが一人で悩んでいた事がわからなかった。結局俺はまた、近くの大切なものが見えていなかった。
マリアを助ける為にアヤカは苦しんでいたのだろう。とはいえ、自分達は信頼関係がやっぱり薄いのではないかと寂しくもなった。
先生から守る為とはいえ、トシカズも充分危険な人物だったし、サトウに俺も苦しめられた。俺とショウが傷つく事は考えなかったのか?そこは、殺されるよりはマシって事か?
マリアがもう少しで解放される所だったと言う事はマリアは生きているのだろうか。いや、死体が返ってくる可能性もあるのか。
……犯人…いや、ヤマダ先生の真の目的はなんだ?
マリアが苦しむ所をSNSで皆に見せつけただけであとは解放するっておかしくないか?直接マリアに殺したいほどの恨みがあった訳では無さそうだし、人質にして、お金を要求してきた訳でもない。
ただ、マリアの周りの人があたふたしてるのを見たくて、弄んだだけなのか?そんな事あるのだろうか?
本当の目的が見えない。
目的はまだ他にあって、マリアの事も利用しているだけに過ぎないのだろうか。アヤカを利用したように。
「……うっ」
「ショウ!?!」
突然だった。ショウがいきなりフラッと倒れた。俺はショウの身体を支えようと手を伸ばした。
後ろを振り返ると黒服の人物が立っていた。
驚きのあまり、ハッと息を飲み、目を見開いていまう。
マリアの殺人動画にでていた人物と同一人物のようだ。顔はどこかのキャラクターの少年のお面をつけている。右手にはスタンガンを持っている。身長は高い方だ。背後から近づいて来た事に全く気付かなかった。あの時のように、あの殺人動画の時のように、足音を立てず地を這う蛇のごとく気配を消して近づいて来たのだ。
ショウはスタンガンに当てられたのだ。
咄嗟に、アヤカの方を見ると口元に手を当てて、大量の涙を流しながら震えて立っていた。
「ごめんなさい……ご、ごめっ……ごめんなさっ……」
怯えるように小声でずっと、謝っている。
俺はショウをそっと地面に寝かせ、立ち上がった。どうすれば勝てる?俺は武術なんかさっぱりできないし、ここでこいつを刺激したら何されるか、わからない。怖い。
どうする?どうする?どうする?
「うわっー!!」
俺は犯人の足元目がけて正面から突進した。尻もちを突かせれば身体を押さえられると思ったから。
しかし、俺のそんな考えも、身体も簡単に綺麗に交わされてしまった。背中を肘で殴られる。
「ぐはっ……!」
「……やっぱり話してしまったのですね」
黒服はアヤカに向けてそう言ったようだった。
「……うっ」
痛みで動く事が出来ず地面に俺は転がっていた。黒服は俺にもスタンガンを当てて来たようで、身体にビリッと痛みが走った。意識が遠くなる。……もう何も考えられない……。全て一瞬の出来事だった。
……アヤカに話しかけていた黒服の声は……確かにヤマダ先生の声と同じだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます