第32話 嘘の履歴



「そうですよね?アツシくん?」



ショウがゆっくりこちらを向いた。目の奥が笑っていない。


「えっと……」


「え?どういうこと?アツシくんが協力者だったの?」


「……どうして……俺はそんなつもりじゃ……」



俺はどうしたらいいのか、狼狽えてしまった。


「アツシくんがやる訳ないよ!ショウくん、何かの間違いよ!絶対に違う!!」



アヤカは必死に否定してくれているが、ショウは変わらず目の奥が笑っていない。


「アツシくん本当の所どうなんですか?証拠はありますが、アツシくんの口から聞きたいです」


「俺は……違う……やってない……」



俺は思わずうつむいてしまった。



「ショウくん!アツシくんはきっと違う!今までみんなで頑張って来たじゃない!ここに来て、どうして仲間を疑うの?第一、本当にアツシくんなら、もう警察に捕まっているんじゃない?おかしいよ!それに確かその日、コンピューター室は業者のメンテナンスの後だから夕方は誰も部屋にいなかったはずよ!だから、絶対に違う!!こんなの……悲しすぎる……。折角仲直り出来たと思っていたのに……また皆で……マリアを探せるって思ったのに……」




俺とショウは目が合う。二人でアヤカの方を見た。



「どうして、コンピューター室だと思ったのですか?」


ショウが低い声でアヤカに尋ねる。



「え?だってパソコンと言えばコンピューター室でしょ?」


「図書室にだって自由に使えるパソコンがあるじゃないですか?ウチの学校は」


「……まあ、そんな事どうでもいいじゃない!アツシくんどうなの?やってないよね?違うよね?」


「……やってないに決まってるだろ」


「そうよね!!……でも本当の事言うなら今だよ?もし嘘だったら流石に私もプンプン怒っちゃうからね!?信じるよ?いや、最初から信じてはいるけどね」



アヤカは両手の人差し指を出し頭に当て、鬼のポーズをとっていた。



「やってない……やるわけない……本当の協力者はアヤカだろ……?」



アヤカの目を見て言うのが辛かった。



「私?!アツシくんそう言うの良くないよ!?流石に怒るよ!自分が疑われなくないからってさ!」


「じゃあ聞くけど、何でコンピューター室だと思った?何でメンテナンスが入っていることを知っていた?」


「それは……先生が言ってたのよ。ウチのクラスの」


「先生方は特に必要性がなかった為その日、生徒には伝えていないと言っていましたよ?職員室に聞きに来た、たった一人を除いて」



「先生は自分で話した事きっと忘れちゃったのよ。ほら、私達学年も一つ違う訳だし、先生のやり方も結構違うのよ」


「もう苦し言い訳は、よしたらどうですか?こちらは証拠もあるんですよ?」


「違う……違うもん……ううっ」


アヤカは両手で顔を抑え泣き出してしまった。



「だって私は悪くないもん!!……悪くないんだもん……」


「認めるのですね、協力者だと」



「……私は確かにあの日トモキにメールを送った……でも私の話をする前に証拠を見せてよ!」



「証拠はありません。今の会話を録音したのが証拠になります。防犯カメラなんて見てないし、見せて貰えなかったし、メールの履歴何て見つけられていませんし、アヤカが自白するのを待って居たのです。アツシくんには会話を合わせてもらっていました。僕が話した事はほぼ作り話です」



「騙したの?……二人で私の事騙したのね!?酷い!!」




「あの時、僕はタナベさんに呼び出されて言われたんです。アヤカが怪しいと。タナベさんさんは僕達が想像する以上にマリアの事件についてを調べていました。トモキのメールの件も既に知っていました。それと、トシカズはなぜ僕がフライだと知っていたのかとずっと疑問に思っていました。タナベさんは、それも調べがついていて、教えてくれました。メールの件と同一人物の仕業だと言っていました。


『さっきは、すまない。トモキのメールの犯人はアヤカだと俺は思っている。マリアの事を虐めていたからと言うのもあるが、裏垢を使って怪しい男と連んでいると噂を聞いた事がある。何やらその男は高校教師だとか……。しかし決定的な証拠がない。さっきの様子を見ればアヤカはフライに惹かれているように見えた。だから君がアヤカにカマを掛けて、尻尾を掴んで欲しい……アヤカはその高校教師と連んでから、ネットの裏情報を何でも知るようになったらしい。そしてそれを利用し、情報を与える代わりに自分の願いを様々な人に叶えてもらっていたらしい。目的はわからないが。きっとトシカズにフライが君だと教えたのもアヤカだ……』



と言われました。僕は信じたくありませんでした。やっぱり一緒に頑張って来た仲間ですし。タナベさんの部屋を出た後、アヤカが嘘をついているのか一か八かで試して見る事にしました。アヤカの顔を触ったのです。正確にはアヤカの首を触って脈拍を測ろうと思ったのです。嘘をついていたら脈拍が早くなると思ったのです。女性の顔をいきなり触るのはいけないとわかっていましたが……。本当に僕達に嘘をつき続けていたのか真実を早く知りたかったから……。それしか思いつかなかったから」



ショウは眉間に皺を寄せながらもどこか切ない表情をしていた。



「そして、アヤカの目の前でアツシくんに連絡をするといい『犯人が分かった』と、アヤカにスマホの画面が見えるようにして送りました」



そうだ。本当は、昨日のショウからの連絡で俺はアヤカが協力者だと知っていた。そしてアヤカがうっかり自白するまで俺が犯人の振りをして演じてほしいと実は頼まれていた。


俺自身が二人に謝罪したいと思ってここに来たのだが、アヤカを自白させる為に演じると言う事も俺にしか出来ないと思った。



ショウから連絡が来た時は半信半疑だった。騙す事は良くないがこれが本当なら、先に俺達を騙したのはアヤカの方だし何よりも真実を知りたかった。

……しかし、アヤカともう仲良く話をする事は無くなるのかと思うと心臓がギュッとなって苦しかった。


アヤカはどうしてこんな事をしたのだろう。苦しくない訳がないのに。


そして、その高校教師が真犯人なのだと確信した。





「そんな……酷い!騙していたなんて!!私もあの時思ったの。ショウくんとタナベさんの事務所から帰ったあの時!


やっぱりあなたは私が始末しなければならないのねって……。


でも、好きだから悩んだ……。好き!ショウくんが好き!守る為にはどうしたらいいかずっと私は苦しんでいたのに、騙すなんて……」



「……え?」


ショウはいきなりなアヤカからの告白に赤面しながらも動揺していた。そんなショウを見ながらも俺は冷静に考えようと頭を働かせる。アヤカは告白以外にもとても重要な事を言っていた。




「……守る為?どういう事?」





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