第31話 協力者の正体
終業のチャイムがまだ誰もいない校庭に鳴り響く。
学校の授業が終わる時間だ。
生徒達が次々に下校し始めた。
俺は今日、また仮病を使って学校を休んだ。ショウと話したいと言う気持ちはあるがまだクラスメイトには会う勇気がなかった。
ショウやアヤカに酷い態度を取ってしまったから嫌われてしまったかも知れない。怖いけどそれでも話したいと、話さなければならないと思った。
俺は誰とも目を合わせないように、学校の前を早歩きで通り過ぎ、ショウに指定された場所に向かった。
学校を休んだ身分なので制服を着るわけにもいかない。しかし、家でいつも着るような少し古くなって毛玉のついたグレーのスウェットで外出するのもなんだか違う気がした。悩んだ挙句、上はくすんだブルーのパーカーに下は細身の黒いパンツとラフに見えるが無難な格好をして出かけたのだった。
1日ぶりに見る外の景色は見慣れた場所だと言うのにとても鮮やかに見えた。空が青い。雲が白い。花が赤い。空気でさえ美味しい。なんだか新鮮だった。自然と気持ちは落ち着いていた。話す内容は何度も何度も考え、確認してきた。
これでダメだったら、二人と分かり合えなければ、先の事はその時考えれば良い。
何が少しでも良い方へ変わるだろうか?
学校から少し離れた場所にある公園についた。アヤカがこの場所を選んだという。公園の中は
真ん中に塗装が所々剥がれた古い小さな滑り台と端に、錆びれたベンチが2つ並ぶだけの決して大きいとは言えない公園だった。地面は走りやすいそうな砂が広がっているが、手入れが行き届いていないのか端の方には雑草が生い茂っている。
何度かこの公園の前を通った事があったが中に入るのは初めてだった。正直、古くて狭くて
公園につくと二人はまだいなかった。俺は錆びれたベンチに腰掛けボーっと空を見上げていた。ベンチは何だか暖かい。太陽の光が当たっているからだろうか?
二つの足音が近づいてくる。ショウとアヤカだ。当たり前だが二人は制服を着ている。以前のように喧嘩をしている様子はない。穏やかに落ち着いて会話をしていた。そしてどこか距離が近いようにも感じた。側から見れば美男美女のお似合いのカップルだ。実際の所お互いどう思っているのだろう。
俺はベンチから立ち上がって二人の方へ向かった。丁度、滑り台の横で合流した。
「アツシくん来てくれてありがとうございます」
ショウは穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「アツシくん思ったより、元気そうね……よかった」
アヤカも安心したように微笑んでいた。
二人の優しい言葉に泣きそうになってしまう。直ぐに言わなければ。
「俺、二人に酷い態度とってごめん」
俺はそう言うと直角に頭を下げた。許して貰えなくても今の自分にできる事はこれだけだ。
「そんな、頭を上げてください!いいですよ!僕はアツシくんとこうしてまた話せて本当に嬉しいですから!」
「そうだよ!私も全然、気にしてない」
「でも……本当にごめん」
「大丈夫ですって」
「……ありがとう……なんでこんなに優しいんだよ?」
今まで誰も俺の言葉なんて聞いてくれなかったのに。信じてくれなかったのに。どうしてだろう。
「僕達は友達だからです。アツシくんだけが何かが違うなんて思う事はないのですよ?友達だから助け合うだけです。アツシくんも僕にそうしてくれたじゃないですか?」
「そうよ!?何でも頼ってよね!私これでも二人より一歳だけ先輩なんだから!!」
「……ありがとう……」
「もう、これ以上自分を責めるのはやめてくださいね」
悩みなんて一瞬で吹き飛んでしまった。勝手に自暴自棄になっていただけだった。「幸せ」は近くにあった。見えていない、見ようとせず逃げていただけだった。考えすぎて、自分は幸せになれないと、自分に呪縛をかけていただけだった。自分との向き合い方の問題だった。
諦めなくてよかった。
本当に少しずつだけど俺はちゃんと変われていた。
俺は嬉しさで泣きそうになるのを横を向いて隠しながら、ショウに話を振った。泣いている所を見られるのはやはり恥ずかしかった。
「シ、ショウの話は何?」
「タナベさんの事よね?ショウくん?」
アヤカも真剣な表情で話を切り出す。ショウもさっきとは違い、少し低い声で話だした。
「……いいえ。トモキに謎のメールが送られてきた件、覚えていますか?マリアの殺人動画のURLが送られてきた件です。その犯人が分かったのです」
「え?」
「誰なの?」
「まあ、落ち着いてください。メールを送ってきた犯人と、マリアの殺人動画に出ていた黒服の人物は全く別の人物だと僕は思っています」
「つまり犯人は二人いるって事?」
「二人と言いますか、主犯と協力者と言う感じでしょうか」
「その協力者が分かったのです」
「そうなの!?」
「今からメールがどんな経緯で送られ、その協力者が誰なのかをお話しします」
ピリッと緊張感が走った。ショウは真っ直ぐな瞳で話を続ける。
「……その協力者は僕達が通う高校の関係者です」
「「え?」」
「ですから主犯も高校の関係者ではないかと思っているのです。が、そこはまだ証拠が確実ではないので追々話します。屋上で、僕達三人が出会ったあの日から僕は、アツシくんとアヤカには内緒で一人でマリアの知り合いの所へ聞き込みに行っていました。一人で調べていました。
そこで何人もの話を聞くうちに気づいたのです。協力者も、主犯もずっと近くでマリアや、マリアを調べている僕達を見張っていたんじゃないかって。
だって、いろいろな事がおかしくありませんか?
僕の正体はフライだと明かしていないのに、トシカズにバレたり、アツシくんがクラスメイトに嫌がらせされたり、アヤカが裏垢女子だとタナベさんが知っていて怒鳴られたり……。今まで平和に過ごしていたのに、全てマリアの事件の後に起こっています。
いろんな人の話を聞くうちに、やはりマリアの学校外の知り合いでは、マリアの周りの事など全てを把握できないのではと僕は思いました。
そこで、学校の関係者が怪しいと思って、事件の前日から、事件後までの防犯カメラの映像を見せてもらいに行ったのです。先生には、反対されて大変でしたけど、何度もお願いに行って、特別に見せてもらいました」
「まって、マリアを見張っていた人物なら、トシカズとかも怪しいじゃない?変態おじさんって感じだし」
「それはないだろ。トシカズの本命はフライだったんだよ。前に話さなかったか?マリアのストーカーよりもフライのストーカーだよ。実際にショウが危なかったし」
「そ、そっか。……それでそれで?」
「……防犯カメラに映っていたのです。協力者と思われる人物が。マリアの事件の数時間前の出来事でした。その人物は先生に学校のパソコンを使って良いか職員室に確認にも来ていたそうです。どうやら、学校のパソコンを使ってトモキにメールを送ったようです。僕は防犯カメラの映像を見た後、実際にそのパソコンを見に行きました。何か手掛かりがないかと。そしたら、その人物は相当焦っていたのでしょうね。データを消し忘れていたのですよ。僕はメールの履歴を見つけました」
「え?そんな事ってある?……で、その人は誰なの?」
「今その人物はとても焦っているのではないでしょうか?」
「「え?」」
ショウはゆっくりとこちらを見る。目の奥が笑っていない。
「そうですよね?アツシくん?」
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