第8話
────誰もいない中庭に到着して、ベンチに座る。
改めて彼に心配の声を掛けるも、彼からはいつもの意地悪な返事が来てしまった。
「……大丈夫だ。君に心配されるほど俺は弱くないから」
「オリバー」
私はムッとしながら、彼の両頬を掴んでお説教をする。
「まったくもう。こんな時まで意地悪言うのねこの口は!」
彼の頬を伸ばして縮めてをしていたら、彼から「ひゃい?」と、なんとも可愛らしい反応が出た。
私はあなたが意地悪な言葉を言う度にその奥に隠れた本音があることを何年も前に知っているの。もうあなたの本音を教えてほしい。
オリバーにそう伝えると、彼はとても驚いた顔をしていた。
そして……戸惑いつつも言ってくれた。
「オフィーリアは、可愛い。不細工だなんて、思ったこともない。君ほど可愛い人を、僕は他に知らない」
それは、私がずっと望んでいた言葉だ。
嬉しくて顔が綻んでしまう。
それから半ば強引に、私を好きだという言葉も引き出した。
そう言いつつもアーロとの婚約は邪魔しないと言い出したときは思わず「ばか」と罵ってしまったが、その流れで私もオリバーが好きだと言えたから結果的に良かったと思う。
お互いの気持ちを言い合えて、私は彼をダンスに誘った。
さすがに泣き腫らした後の彼の可愛い顔を他のみんなに見せたくはなかったので、会場から漏れ聞こえてきた音楽に合わせて中庭で二人きりで踊ろうという話だ。
ダンスのときは相手とすごく密着するので、ドキドキしてしまう。今しがた思いを伝え合ったから余計に。
でも、このドキドキはきっと私だけの音じゃない。
「……心臓の音、すごいわね」
「……ほっといてくれ」
「……実は私も、ドキドキしてるのよ。今までも毎回、ドキドキしてたわ」
「……あっそ」
揶揄い半分、照れ臭さ半分でオリバーに話しかけるものの、オリバーからは素っ気ない返しが返ってきた。
だからつい私も、素直じゃない返事をしてしまう。
「……あ、悪い。今のはその、」
「ふふ。良いわよ別に。あなたは今まで通りでいてちょうだい。いきなり優しくされても気持ち悪いもの」
「気持ち悪いって……」
本当は気持ち悪いなんて思っていない。むしろ優しくされたら嬉しいに決まっている。
だけど仕方ない。
私もあなたが好きで、つい素直じゃない言葉を返してしまうのだから。
でもきっと、それが私たちなのだ。
お互いに意地悪を言ったり素直になれなかったり。
傍から見たら仲が悪いように見えるだろうけれど、それでも良い。
お互いが本心を分かってさえいれば問題ない。
「これからもよろしくね。大好きよオリバー」
「…………ああ」
「不細工」と言われたのでてっきり嫌われていると思っていたのに、実は私を好きなようです 香月深亜 @mia1311
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