第7話

────それからあっという間に月日が経ち、高等部二年。あれから四度目の創立記念パーティーの日を迎えた。


 悲しいことに、四年経ってもオリバーと私の関係は変わらなかった。

 ……むしろ今現在は、少し距離ができている。


 この一週間、何故かオリバーが私を避けているのだ。

 避けられるようなことをした覚えはないが、もしかしたらという心当たりは一つだけある。だが、避けられていては何の話もできない。


 はあ、と大きくため息を吐きながら会場に入ろうとしたそのとき、私の耳は「オフィーリア」と囁いた彼の声を捕らえた。

 多分きっと、本当に小さな声だったと思う。

 それでも、私がずっと彼から話しかけられることを待ち望んでいたから、周りの雑音を退けて彼の声だけ鮮明に聞こえたのだろう。


 私と目が合った彼は、しまったという顔をしたが、逃がすものか。一気に彼との距離を詰めて、問い詰める。



「ねえオリバー。あなた最近、私のこと避けてるでしょ?」



 直球で尋ねてみたものの、彼はそんなことないと言う。仕方がないので、私は唯一の心当たりを口にした。


「アーロから聞いたんでしょ? ごめんね。あれはうちの叔父さんが勝手に話を進めちゃってて、私も後から知らされたのよ」


 両親たちは私とオリバーを婚約させる気満々だったから盲点だった。


 私の叔父にあたるお父様のお兄さんが、高等部に上がっても婚約者が決まらない私を不憫に思い、お父様も知らない間に叔父様とは同級生であるアーロの父親と話をしてしまったらしい。アーロの父親は私とオリバーの件を知らないわけではなかったが、残念なことに当日はお酒を飲んで気が昂ってしまったらしく、ついうっかり叔父様の話に乗ってしまったというのだ。

 と言っても、その翌日にはそれを知ったアーロのお母様も私のお母様もカンカンに怒り、すぐさまアーロとの婚約話は白紙になったのだけれど。


 だから、私とアーロの間に婚約話が出たことは本当だが、実際にはなかったに等しい。なんなら親戚が酔った勢いで話をつけた、なんて恥ずかしいので消し去りたい出来事だ。


 そんな話なのであえてオリバーにも話していなかったのに、オリバーは誰かからその話を聞いてしまったのかと私は思った。

 それで、私とアーロに遠慮して距離を置くようになったのではないかという予想だ。



 しかし事態は、思わぬ方向に動いてしまった。



「……オリバー?」



 どうしてか、目の前にいるオリバーの目から涙がこぼれ落ちている。

 彼の泣く姿なんて初めて見た。


 初めての光景に慌てふためきながらも、人目を憚り、私は彼を中庭に連れて行くことにしたのだった。

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