第5話 送辞③

『先輩方の何に対しても勇猛果敢に挑戦する姿にはいつも刺激を受けました。言葉はなくともその背中で私たちを奮い立たせ、同時に激励を送ってくれました』


 在校生代表の送辞がなんだか嫌味に聞こえてくるのは明らかに自分のせいだった。隣の沙月も同じように聞こえたのか、眉間に皺が寄っている。

「後から知ったんだけど、砂浜から島まで四十五㎞くらいあったらしいよ」

「それどのくらい?」

「京都から大阪くらい」

「帰宅部の距離じゃない」

「ほんとに。もう漂流者にはなりたくないよ」

 あの日、俺たちは誰一人として島に辿り着けなかった。

 それどころか勢いが良かったのは最初だけで、泳ぎ始めるとすぐに失速し、まだ砂浜からそこまで離れていないところで全員力尽きてしまったのだ。

 そして、俺たちが成すすべもなく浮かんでいたのを偶然通りがかった漁船に助けられた。

「漁師のおじさんすごく笑ってたよね」

「『今日はボウズかと思ったら、高校生が大漁とはなあ』って言ってたな」

「いい人で良かったよ。でもあのまま流されたらどこまで行っちゃったんだろ」

「メキシコとか?」

「サボテンもドン引きだよ」

 サボテンに感情移入したのか、沙月は蔑むような目をした。それは自分に向けられていると彼女はわかっているだろうか。

 しかし沙月はすぐに卒業式の真っ最中だと思い出したようで表情を戻す。

「で、高三と言ったらあれだよね」

「なんかあったっけ?」

 思い返してみても特に身に覚えはなかった。三年生は受験勉強ばかりであまりイベントらしいイベントは無かったように思う。

「八生くんの告白玉砕イベント」

「あれをイベントにカウントするな」

 めちゃくちゃ身に覚えがあった。ただ一点、訂正しなければいけない。

 俺は告白すらできていないのだ。

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