第3話 送辞②
『先輩方には部活動や生徒会活動で大変お世話になりました。特に部活動では、とても多くのことを教えていただきました』
スピーカーから流れる在校生代表の思い出は、後輩と関わりのなかった俺には他人事のように聞こえる。いや、ここにいる卒業生の何割がこの送辞を心から聞いてるだろうか。
「そういえばサボテン部ってあれからどうしたんだっけ」
「学年上がって後藤くんたちとクラス離れたら自然消滅しちゃったよね」
そうだったか。まあ無理もない。
部活動全員参加の校則は一年生にのみ適用される。二年になったら退部を選ぶ人も出てくるため、それを止めるまではしないようだった。
つまり二年生には隠れ蓑も必要なくなる。
「あのサボテン、結局花咲いた?」
「さあ」
彼女は小さく首を傾げた。
俺もまだ校庭の隅には大きな柱サボテンが立っていることは知っている。見ようとしなくても視界に入ってくるからだ。
けれど、それだけだった。
「最後に水でもやって帰るか」
「適当な愛だなあ」
沙月が苦笑すると、胸元を飾るコサージュが小さく揺れた。俺の左胸にも同じものが付いている。
「そういえば水で思い出したけど、高二のとき海も行ったよね。ほら、夏休み」
彼女の言葉に引っ張り出されるように思い出がよみがえる。それは思い出すだけでも少し息苦しくなった。
「ああ、あの死にかけたやつ」
「それ」
彼女は苦笑いをより深くする。俺もようやく笑えるようになってきた思い出だ。
我ながら、あのときの俺たちは本気で馬鹿だったと思う。
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