第2話 嫉妬深い神

「なんでこんな」

「わたくしからハスミをとろうとするからだ」

 聞こえてきたのは暗く淀んだ声。


「ああ。神様。リバーはそのようなことは考えていなかったのです。リバーは神であるあなたに一度でいいからお会いしたいと」


「わたくしとそなたの時間を邪魔したのだ。

 それだけでもゆるしがたいというのに今日を最後にそなたをここに寄こすことはしないと」


 俺は思わず口を開いていた。


「確かにそういうところがあったけれど

 人間のくだらない嫉妬や束縛じゃないか。

 神様ならそんなことすぐにわかったはずじゃないのか」


「小僧が。知ったふうな口をたたきおって。

 その嫉妬や束縛こそわたくしが忌むべきものである」


「ならばそこまで人間の感情をおいといならば

 私も憎いということになるのではないですか?」


「わたくしはそなたを憎いと思ったことはない」


「私はあなたさまをお慕いしています。

 私はあなたさまをお慕いしている気持ち以上にリバーさまを愛しています。


 その気持ちはなによりも大きいもの」

 蓮見の全身全霊の言葉なら神でも納得するだろうとおもっていた。


「そうか。そなたもしょせん人間なのだな

 そんなものを私は守っていたのか……」


 そう呟くと神はおぼろげな姿ではなく

 実体の姿となった。



 それは崇めたくなるような気高いものではなく

 ケルベロスに近い犬になっていた。



「ならばお前も私のそばから消えればいいっ」


 鋭い牙が襲い掛かるが、刀で食い止める。

 キンッ!



 彼女を守るように反射的に動いていた。

 はじめは苦にならない単純攻撃でしかなかった。


 次第にスピードも

 力も増していく。


「くっそ」


 刀が酷く重い。

 防御で精いっぱい。


 ガアン

 一段と甲高い音とともに刃が宙をまった。



「お前は殺さぬ」

 神にとって怒りを向ける対象は彼女だったから俺ははじめから意識の外だった。


 真紅の色が彼女を染め上げてから

 もはや神とも呼べない神がおれに向きなおった。



「にんげんなどいらぬ」

「仕方のないことをするものではない」

 オレが声のする方に顔を向けたとき

 光の玉が浮かんでいた。


「やめるのじゃ」

 光の玉は神に命じる。

「黙れ。お前などに何がわかる。おわりだ」


 神は一瞬だけ微笑んだように感じた。

 切った感覚はなく、実体からぼんやりとした姿になり

 すぐに消えてしまった。こんな不思議な出来事ってあるんだろうかと

 未だに考えてしまう。

 夢みたいだ。


 親友と彼女はいなくなり

 神も祠もまた消えていた。

 これだけが事実。


 俺は毎朝供え物をしている。彼女のためでもあり、死んだ親友の弔いでもあった。

 供え物は花であったり、季節の果実だったり、様々だ。

「親友の奥さんが戻って来ますように」

 神隠しとはこのようなことも言うのだろうか。


 俺は今日も仕事へ赴く。生活を続けるために。



             END


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神に魅入られると 完 朝香るか @kouhi-sairin

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